2017年8月29日
経営感度を磨く社会の読み方<第2回>
おもてなしのESD
2017-11-27 18:05
ESDとは、「持続可能な開発のための教育」です。みんなで明日を考える学習のことですが、身近なところにヒントがあります。今回は、みなさんと一緒に「おもてなし」を考えましょう。
「その夏の思い出が、僕達の永遠になる」
これは、長野県小諸市が舞台のTVアニメ『あの夏で待ってる』のキャッチコピーです(小諸学園に通う高校生の男女などを巡るラブコメディー。二〇一二年一月〜三月放送)。小諸市も制作に協力、作中に市や周辺の風景が出てきます。
このアニメの放送とともに小諸市に「舞台探訪」に訪れる人が増え、二〇一二年三月には、「おもてなし」ができるようにと、小諸市、小諸商工会議所、小諸フィルムコミッション、小諸市観光協会で「なつまちおもてなしプロジェクト」が立ち上げられました。同プロジェクトの公式ホームページやフェイスブックは、『あの夏で待ってる』公式ホームページともリンクしています。ファンとの意見交換会やポスターなどのオリジナルグッズ制作、日程を決めてスタッフも常駐する交流所「なつまちおもてなしサロン」の設置のほか、「小諸ドカンショなつまち連」「なつまちサイクリング&ウォーキングスタンプラリー」などのイベントを企画し、地元商店街や企業も参加してファンを呼ぶ仕組みができています。
今年のキャッチフレーズは「二〇一四年三年目のあの夏が始まります」「今年も小諸に、忘れられないあの夏がきます」「Waiting in theSummer」。東京で開催された「AnimeJapan2014」とリンクした企画もあります。
地元が一丸となって、ウィン・ウィン関係構築による共有価値の創造(CSV)やESDとして、地域づくりに役立つことが期待されます。
高知県の「おもてなし」行政
高知県はロケ誘致に力を入れていて、映画『県庁おもてなし課』のほか、拙著『CSR新時代の競争戦略』でご紹介した、四万十川市を舞台とするTVドラマ『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』でもロケ地になっています。
この「おもてなし」行政の核となるのが、二〇一三年からの「高知家」というアイデアです。高知県知事が陣頭に立って、同県出身の広末涼子さんを「高知娘」に起用し、県民全員を「大家族」と見立て、「人と人のつながり」を重視しています。
高知家の理念は、「おいしいご飯。キレイな景色。たのしい遊び。ぬっくい人。高知県は高知家の家族しか知らないような『幸せ』を、たっくさんおすそわけします。高知に関係する人は、みんなぁ家族やきね」です(ホームページより)。
「おすそわけ」は、「高知家の食卓」から。地産地消、みんなで食べる「皿鉢料理」は、世界無形文化遺産である和食の代表例です。ご当地キャラは「カツオ人間」で、県の地産外商公社特命課長でもあります。
また、全国初の「県民総選挙」で県民が観光客に推奨したい飲食店を選定。県内の一万四三一四世帯が投票し、ランキングを公表しました。さらに高知家の唄もあります。「ちゃぶ台と家族写真」で、「ちゃぶ台」は家族の食に欠かせない、懐かしい単語です。
「リョーマの休日」
さらに、高知県では「観光立県」政策として、「おもてなしトイレ」の認定、「おもてなしタクシー」の利用促進などのほか、NHK大河ドラマ『龍馬伝』で増えた観光客数を維持すべく、「リョーマの休日」キャンペーンを行っています。RYOMAの頭文字は、R=ロマンの休日、Y=やすらぎの休日、O=美味しい休日、M=学びの休日、A=アクティブな休日で、M(学び)の部分はESD的価値が高いですね。
「高知龍馬空港」は高知空港の愛称で、日本で初めて人名を冠した空港です(二〇〇三年に愛称化)。海外には、シャルル・ド・ゴール空港(フランス)やジョン・F・ケネディ空港(アメリカ)などがあります。
高知大学では、農漁村との交流を応援する県の「結(ゆい)プロジェクト」への参画や、ESDにおいて今後の主要なテーマといえる「ファシリテーション力養成道場」の運営などを行っています。
また、四国四県内では「四国八十八箇所霊場と遍路道の世界文化遺産登録推進活動」を行っています。伊藤園は「お茶で日本を美しく。」キャンペーンの一環としてこれに参加し、最近では高知支店がNPO法人「遍路とおもてなしのネットワーク」主催の接待木「実のなる木」植樹活動に参加しました。
「高知家」はESDの家
「高知家」というストーリー性がある仕組みは共感を得やすく、地産地消・観光・地域活性化などの政策目的が明確で、官民挙げて参加でき、みんなで考え学ぶESDの「プラットフォーム」になっています。
筆者は、人と人とのつながりのCSR・CSV・ESDの要点は、第一に「いいね!」(共感)、第二に「なるほど!」(論理)、第三に「またね!」(継続)であると考えています。高知県の政策は、県民や企業を巻き込み、この要点を押さえています。
ESDは、言葉のなじみが薄いだけでなく、いまだ国内で浸透していないことが問題です。日本人がESDを意識して「気付き」が生まれることで、社会課題の解決に向けて人と人とのつながりが期待されます。
『あまちゃん』—— ロケ地のESD
二〇一三年八月末に、『あまちゃん』の主要ロケ地の久慈市を、岩手大学ネットワークの講演で訪れました。同市は市長などからなる『あまちゃん』支援推進協議会を設置、都市と
農漁村の交流が活発に行われていました。
地元の人にとってはいつも見ていて新鮮味がないものでも、都会人が見ると新たな発見につながります。久慈市観光物産協会のサイトを見ると、「ありがとう『あまちゃん』次は、オラ達だ!」という意気込みが伝わってきます。今後どのような発展をたどっていくのか楽しみです。
ロケによる地域活性化やおもてなしの元祖的存在は『男はつらいよ』シリーズの「寅さん」こと車寅次郎だったかもしれません。その故郷・柴又は地元関係者のネットワークにより現在も街並みづくりが進められ、「二〇一〇年都市景観大賞 美しいまちなみ特別賞」(主催:「都市景観の日」実行委員会」・後援:国土交通省)をはじめ、「二〇〇九年グッドデザイン賞」などの受賞につながっています。
(『月刊総務』2014年9月号より転載)