2019年11月1日
なぜ今「SDGs経営」なのか
SDGs が「経営マター」になったとは、どういう意味でしょうか。なぜ今「SDGs経営」なのでしょうか。「SDGs経営」の時代において、経営者としてどう対処すべきか、留意点をまとめておきたいと思います。
- 「経営マター」になったSDGs
SDGs の17目標のカバー範囲は極めて広いのです。企業統治や環境課題への対応のみならず、働き方改革、採用、ブランディング、地域社会など幅広くカバーしています。SDGs に関心の高いミレニアル世代の消費者への対応やグローバルなリスク管理にも必須項目です。
まさに、SDGs は経営要素のすべてに絡むので、社内全部署に関連し、経営トップも重大な関心を寄せる経営マターになったのです。
一方、投資家を中心に、ESG、つまり環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への要請が世界的に高まっています。ESG投資家は、投資におけるE、S、Gの各要素の判断にあたり、企業のSDGs への貢献度を1つの指標として使い、ESGとSDGsとは「表裏の関係」になりました。
これは、SDGs への対応が株価水準に直結するようになったことを意味するのです。これがCSR(企業の社会的責任)などと違ってSDGs が「経営マター」になった最大の理由だと思います。
- SDGs経営は社内外に変革をもたらす
SDGs (Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、少し硬い用語ですが、要するに、現在の地球規模的課題をふまえて持続可能性について語る場合の「世界の共通言語」と理解できます。国連での世界193か国の合意は重いものです。
17の目標と169のターゲットによって構成され、持続可能な社会づくりに関するさまざまなルールの集大成で、先進国でも途上国でも、政府、企業、関係者のすべてが、自主的に取り組む2030年に向けた目標です。
SDGsを経営に活用するのが「SDGs 経営」です。これにより、外には企業価値を高めて国際的競争に打ち勝ち、内には社会課題解決型のイノベーション創出と社内モチベーション向上につながる効果があります。
SDGs を盛り込んだ国連の2030アジェンダの文書の題名に「我々の世界を変革する」とある通り、SDGs の実践は社内外に変革をもたらすのです。この効果は筆者の伊藤園でのSDGs実践経験やコンサルティングした企業での効果からも実感します。
- SDGs の本質は何か?―SDGs の怖さに気づこう
さて、このような中で経営者はどう対処すべきでしょうか。まずは17目標からビジネスチャンスとリスク回避の両面で企業経営を強化します。SDGs は世界でグローバル企業がけん引する中で、これを活用しなければ国際入札をはじめ世界市場で蚊帳の外に置かれていく危険性があります。
もう一点重要なことがあります。SDGs は自主的取り組みが基本である、ということです。地球規模の危機的状況に向けて、やれる人がやれるところからすぐにも着手しようというルールです。
実は、このルールは怖い。どんどん差がつくからです。ぼーっとしていれば置いておいていかれる。日本が欧米に置いていかれる、日本でもSDGs 仲間から置いていかれる、といったことになります。
ルールが変わったことに気が付くべきでしょう。これまでの日本特有の横並び思考や「護送船団行政」の残影から抜け出して、すぐにも自社は何をすべきか考えなければいけないのです。
SDGs 策定からすでに4年も経ちました。一刻も早くSDGsの「解読作業」を終えて着手すれば、今なら、ぎりぎり、調達などのルールがSDGsで決まった2020年の「SDGs 五輪」や2025年の「SDGs万博」の準備に間に合います。
以上の問題意識の下で、どのようにSDGsを経営に入れ込んでいくのかについて具体策を示したのが、笹谷 秀光 (著)の新刊「Q&A SDGs経営」(日本経済新聞出版社)です。
SDGsを経営に実装する手順を、①社会課題に関する社内共通認識の醸成、②重点事項の選定、③目標設定と進行管理、④経営戦略の構築、⑤発信等のすべての経営プロセスについて、中堅から大手まで多くの企業事例を交えて説明しました。
特に、これまでのISO26000(社会的責任に関する手引き、2010年発行)によるCSR、ポーター教授らのCSV、ESGとの関係などを整理し、新たなサステナビリティ・マネジメント体系を示しています。
これを廃プラ、パーム油、水産物認証や石炭火力のダイベストメントなどの最新の課題にも触れつつ、実際の経営課題に応用しています。
日本企業はもともとSDGs的な素地がある企業が多いので、世界の共通言語SDGs の解読を終えれば、すぐに当然こなすべき項目の「規定演技」に対応できます。その上で、自社の特性を生かしてアピールする「自由演技」を進めていくポテンシャルの高い日本企業は多いと思います。新刊がそのヒントになれば幸いです。
※本記事は、ヤフー・オルタナでも掲載されています。