笹谷秀光 公式サイト | 発信型三方良し

「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。Forbes Japan Web:SDGs達成率18位の日本、国民の「自虐性」がブレーキに?

2022年3月7日

 

SDGsを活用した「発信型三方良し」ビジネスを探る

Getty Images

国連でSDGsが策定されてから、9月25日で6年を迎えた。

この6年間で、日本はどこまでSDGsを達成できたのだろうか。国別のSDGs達成度ランキングを見ると、日本は2017年の11位をピークに順位を落とし、2021年には2016年と同様の18位(図1)に落ち着いている。

ランキングでは、1位のフィンランドに続き、スウェーデン、デンマークと北欧諸国がトップ3にランクイン。その後も欧州勢がほとんどを占め、このランキングは欧州のものかと勘違いしかねないほどである。

そして18位に初めて欧州以外の日本が入る。ちなみに米国は32位、中国は57位である。


(図1)SDGs国別達成度ランキング
 
広告

1位:フィンランド
2位:スウェーデン
3位:デンマーク
4位:ドイツ
5位:ベルギー
6位:オーストリア
7位:ノルウェー
8位:フランス
9位:スロベニア
10位:エストニア
11位:オランダ
12位:チェコ共和国
13位:アイルランド
14位:クロアチア
15位:ポーランド
16位:スイス
17位:イギリス
18位:日本
19位:スロバキア共和国
20位:スペイン

出典:2021年6月発行『Sustainable Development Report 2021』(Sustainable Development Solutions Network and the Bertelsmann Stiftung)


年々落ち込んでいるこの結果を見て、「やっぱり日本はだめなのか」と落胆してしまう人もいるかもしれない。しかし、本当にそうだろうか。内容をよく分析してみよう。

ランキングの正しい読み解き方


では、日本の「18位」はどう理解すべきであろうか。

例えば、「人口規模」で見た場合、人口1億人以上の国の中では日本がトップとなり健闘していることがわかる。やはり人口は国力のひとつの指標である一方、1億人を超えるとそれなりに課題も多くなるからだ。

日本は、SDGsの目標のうち「ジェンダー平等」や「気候変動」などに課題が残るものの、その他の目標に対しては評価が高い。特に「技術」や「教育」分野では世界的に認められている。

また、ランキングのベースとなるSDGsの各目標に対する「指標」の設定にも難しさがある。

例えば、目標11「持続可能な都市」の指標は、1. 都市部のスラム人口 2. 都市部の粒子状物質(PM2.5)量 3. 改善された水源へのアクセス 4. 公共交通機関に対する満足度の4点。先進国都市では、1〜3の指標はクリア済みなので、4の「公共交通機関に対する満足度」の数値に差が出ることになるが、これだけで目標11の達成度を評価できるだろうか。

ほかの指標も似たような欠点があるので、一概に「日本はだめ」「日本はすごい」と判断することはできない。
 

SDGs達成を阻む「自虐的な側面」


以上のことから、達成度ランキングの結果に一喜一憂してはいけないことがわかる。ただ、日本人が古くから持つ「自虐的な側面」がSDGs達成にブレーキをかける恐れがあることは否めない。

興味深い調査結果と指摘がある。米国の『USニューズ&ワールド・レポート誌』が2019年に発表した「ベスト・カントリー・ランキング」で、日本が過去最高の2位に浮上し、前年5位から順位を大きく上げた。2021年の最新のランキングでも、日本は2位となっている。

2021年の総合1位はカナダ。その後にドイツ、スイス、オーストラリアと続く。アメリカは6位、中国は17位だ。日本は同ランキングが重視している「起業家精神の高さ」でトップに立ち、経済、健康や文化などの分野で高評価となった

同誌では、このような高い海外評価に対し「日本人は世界で最も自国を低く評価している」という結果(U.S. News&World Report、BAV Consulting、Wharton Schoolの共同調査)も示された。それによると、日本人は、自国の生産性・安定性・文化的重要性が、世界の他の国々よりも低いと考えているらしい。

この日本人の「自虐的な感覚」は、観光や海外投資に長期的な悪影響を及ぼすのではないかと、同誌は懸念を示している。


日本人はそろそろ根拠のない自虐性から脱却し、日本の、また日本人の良さ・強さを改めて認識し、世界の中で客観的に位置付けていくアプローチが必要だろう。

「ガラパゴス化」に注意


日本にはSDGsを加速させるためのポテンシャルがある。

まず、少子高齢化や地域の過疎化という課題がある「課題先進国」でありながら、同時に「課題解決力」も備えている点だ。日本企業は、SDGsの各目標を達成するための高い技術力と商品開発力があると、世界からも期待されている。

また、日本には古くから「和の精神」もある。これはSDGsの目標17「パートナーシップ」が根づいている証拠だ。

今後さらに、これらのポテンシャルを発揮するためには、柔軟に世界の動きに対応する必要があるのだが、そこが日本の課題でもある。SDGsの「解読」作業に時間をかけ、国内の横並び志向で対応する、といった日本独自の速度感と態度を継続していては、SDGsの推進でもガラパゴス化してしまうリスクがあると筆者は危惧している。

「ガラケー(ガラパゴス・ケータイ)」。これは特殊な進化を遂げた日本製携帯端末に対する自虐的表現だ。日本の携帯は、日本独自の通信方式(PDC方式)で高機能の国内競争をしている間に、欧州のGSM方式が標準規格になってガラパゴス化した。

日本では、モノだけでなくさまざまなルールや規格についても、ガラパゴス化してしまう危険がある。変化が激しい世界の動きについていけなくて国際標準からかけ離れてしまい、世界には通用しない日本独自の制度が残ってしまうのだ。

世界から取り残されないために


その点、欧米諸国はうまい。筆者が感心したのは2012年の「ロンドン五輪・パラリンピック」による変化である。

この年、英国規格BS8901(持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム)を基に策定された国際規格「ISO20121」が発行された。社会・環境・経済の目標を同時に達成するために、イベント開催組織が行うべき要件を定めたものだ。

ロンドン大会が、この「ISO20121」に準拠した第1号の五輪となった。この経験がロンドン五輪の代表的なレガシーのひとつとなり、英国はこれをきっかけに持続可能性について評価を高めた。もちろんそのレガシーはその後の五輪にも受け継がれている。

果たして日本でも同様のことができるだろうか。先の東京五輪では、運営管理にSDGsを取り入れたことで前進したが、残念ながら、新型コロナの問題の陰に隠れたこともあり、これまでのところ世界からの評価は聞こえてこない。一方、ジェンダー・ダイバーシティや人権意識、働き方改革の面では特に、まだまだ世界の動きについていけない傾向が目立った。
 
 
 SDGsでは、従来の「企業の社会的責任」に関するルール以上に、創造性の発揮とイノベーションによる課題解決力の面で企業の役割が重視されている。この中で、ユニリーバ、ネスレ、エリクソン、コカ・コーラ、グーグルといった多くの世界企業が、SDGsの活用や国連関係者との連携で先を行っている。

また、喫緊の課題である「脱炭素」などでのルールメイキングでも特に欧州が動きを加速させているので、日本企業は、ますます世界から取り残される危険性がある。

このような、世界のしたたかなルールメイキングの流れの中で、今後日本が埋没してしまう可能性がある。ルールメーカーになることは難しいかもしれないが、少なくとも世界の潮流からかけ離れてガラパゴス化することは避けてほしい。
 

文=笹谷秀光

下記のForbes Japan Web からの転載です。

https://forbesjapan.com/articles/detail/43693/1/1/1

 

 

お問い合わせ
通信講座お申し込み