2023年4月30日
2019年から2023年にかけて、世界は激変した。
なかなか収束しない新型コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻という、世界の人々の健康と価値観、地球環境、国際ルールを激変させる出来事が次々と起こった。
そんな中、カーボンニュートラルが本格化し、企業経営では「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が必須となっている。これは経済産業省が打ち出した概念で、その理解には世界的視野が必要だ。
そこで、2020年にSXを総合的に支援する専門組織「サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス」を設立したPwC Japan グループの木村浩一郎代表に、世界動静の分析とSXのコツを聞いた。
「Withコロナがすっかり日常となった中、政治・経済の両面で国際社会の分断が加速した。それがグローバルサプライチェーンの混乱やエネルギー・食料価格の高騰を招いている。インフレが急激に進み、世界的に景気後退への懸念が高まっている」
PwC Japan グループの木村浩一郎代表
景気後退への懸念は、同社の「世界CEO意識調査」(2023年2月)のデータが参考になる。世界105か国・地域のCEO4410名を対象に2022年10月から11月にかけて実施(日本では176名のCEOが回答)*したものだ。
*世界全体や地域の数値は、調査対象国の名目GDPに占める割合に応じた人数のCEOのサンプルに基づき、各地域の意見が公平に反映されるよう加重平均している。
まず、世界経済の見通しから見ていこう。世界全体のCEOの73%、日本のCEOの65%が2023年の世界経済の減速を予測した。経済成長率については、直近10年間で最も悲観的な見通しを示している。
「2020年はコロナ懸念があり悪化した。2021年、2022年と少し回復が見えたが、2023年調査では、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の影響が出て、地政学的対立とそれがもたらす国際経済・社会の断絶がクローズアップされた。経営上の脅威は“地政学的対立”と“インフレ”となり、急激に経済見通しが悪化した」(木村)
世界全体のCEOの40%近くが、「変革なしでは自社は10年後まで存続できない」と回答しているが、この質問には地域差が大きく出ている。
グラフを見ると、日本は72%のところ米国は20%にとどまっているのだ。木村代表によると、日本はある種「リアクティブ」、つまり物事に直面して行動する受け身な対応だからだ。米国はこれまで変革を先取りしてきたので「プロアクティブ」、つまり将来を想定して主体的に対応する、という違いがあるのではないかという。
なかなか収束しない新型コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻という、世界の人々の健康と価値観、地球環境、国際ルールを激変させる出来事が次々と起こった。
そんな中、カーボンニュートラルが本格化し、企業経営では「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が必須となっている。これは経済産業省が打ち出した概念で、その理解には世界的視野が必要だ。
そこで、2020年にSXを総合的に支援する専門組織「サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス」を設立したPwC Japan グループの木村浩一郎代表に、世界動静の分析とSXのコツを聞いた。
急激に経済見通しが悪化
「混迷の時代」をどう分析しているのか。木村代表は次にように話す。「Withコロナがすっかり日常となった中、政治・経済の両面で国際社会の分断が加速した。それがグローバルサプライチェーンの混乱やエネルギー・食料価格の高騰を招いている。インフレが急激に進み、世界的に景気後退への懸念が高まっている」
PwC Japan グループの木村浩一郎代表
景気後退への懸念は、同社の「世界CEO意識調査」(2023年2月)のデータが参考になる。世界105か国・地域のCEO4410名を対象に2022年10月から11月にかけて実施(日本では176名のCEOが回答)*したものだ。
*世界全体や地域の数値は、調査対象国の名目GDPに占める割合に応じた人数のCEOのサンプルに基づき、各地域の意見が公平に反映されるよう加重平均している。
まず、世界経済の見通しから見ていこう。世界全体のCEOの73%、日本のCEOの65%が2023年の世界経済の減速を予測した。経済成長率については、直近10年間で最も悲観的な見通しを示している。
「2020年はコロナ懸念があり悪化した。2021年、2022年と少し回復が見えたが、2023年調査では、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の影響が出て、地政学的対立とそれがもたらす国際経済・社会の断絶がクローズアップされた。経営上の脅威は“地政学的対立”と“インフレ”となり、急激に経済見通しが悪化した」(木村)
変革なしでは10年後まで存続できない?
「世界CEO意識調査」には“変革”に関する質問がある。世界全体のCEOの40%近くが、「変革なしでは自社は10年後まで存続できない」と回答しているが、この質問には地域差が大きく出ている。
グラフを見ると、日本は72%のところ米国は20%にとどまっているのだ。木村代表によると、日本はある種「リアクティブ」、つまり物事に直面して行動する受け身な対応だからだ。米国はこれまで変革を先取りしてきたので「プロアクティブ」、つまり将来を想定して主体的に対応する、という違いがあるのではないかという。
今、日本では変革が叫ばれている。
CX(カスタマー・エクスペリエンス)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、HX(ヒューマン・トランスフォーメーション)、D&I X(ダイバーシティ&インクルージョン・トランスフォーメーション)など、「Xの時代」だ。これらの「X」を総合化して変革するのがSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)だろう。
このように「X」が多いのは日本が様々な変革に出遅れたからだ。CEOはこの遅れに危機感を持っているものの、調査ではいまだ受け身的にとらえている姿が浮き彫りになった。これではとても世界で戦えないだろう。
木村代表はメガトレンドの理解について、「次にどのような危機が発生するか予測することは不可能だが、危機がメガトレンドに起因していることを理解すれば、不意を突かれないよう将来に備えることもできる」と考える。この点が重要だ。
「現在の危機がメガトレンドに起因する以上、メガトレンドに起因する問題を悪化させる対応策は必ず失敗に終わる。危機をさらに増やし、メガトレンドによる死活的な脅威の顕在化につながる」(木村)
例えば、欧州における現在のエネルギー危機に対して「ガスの代わりに石炭発電」という対策を講じた場合はどうだろうか。温室効果ガス排出量が増加し、サステナブルな世界への移行完了までに残されたカーボンバジェットの支出が加速してしまう。将来的に、社会はより大きな痛みに苦しむことになりかねない。
ただ、萎縮しすぎないこともコツだという。
「このようなときだからこそ、大きく飛躍するチャンスととらえるべきです。今までにない発想や行動、そしてすべての礎となる信頼を大切にし、変革を通じて持続的な成長を追求していくことが大切です」
CX(カスタマー・エクスペリエンス)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、HX(ヒューマン・トランスフォーメーション)、D&I X(ダイバーシティ&インクルージョン・トランスフォーメーション)など、「Xの時代」だ。これらの「X」を総合化して変革するのがSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)だろう。
このように「X」が多いのは日本が様々な変革に出遅れたからだ。CEOはこの遅れに危機感を持っているものの、調査ではいまだ受け身的にとらえている姿が浮き彫りになった。これではとても世界で戦えないだろう。
5つのメガトレンドから“変革”を考える
変革への対応について、木村代表は「今目の前にある危機は、より長期的なメガトレンドに起因して顕在化した。その数や破壊力も年々増している」という。メガトレンドとは、「気候変動」「破壊的テクノロジー」「世界秩序の崩壊」「人口構造の変化」「社会の不安定化」の5点だ。木村代表はメガトレンドの理解について、「次にどのような危機が発生するか予測することは不可能だが、危機がメガトレンドに起因していることを理解すれば、不意を突かれないよう将来に備えることもできる」と考える。この点が重要だ。
「現在の危機がメガトレンドに起因する以上、メガトレンドに起因する問題を悪化させる対応策は必ず失敗に終わる。危機をさらに増やし、メガトレンドによる死活的な脅威の顕在化につながる」(木村)
例えば、欧州における現在のエネルギー危機に対して「ガスの代わりに石炭発電」という対策を講じた場合はどうだろうか。温室効果ガス排出量が増加し、サステナブルな世界への移行完了までに残されたカーボンバジェットの支出が加速してしまう。将来的に、社会はより大きな痛みに苦しむことになりかねない。
ただ、萎縮しすぎないこともコツだという。
「このようなときだからこそ、大きく飛躍するチャンスととらえるべきです。今までにない発想や行動、そしてすべての礎となる信頼を大切にし、変革を通じて持続的な成長を追求していくことが大切です」
文=笹谷秀光 撮影=小田光二