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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。企業に投資家が求めることは? PwC Japan木村代表に聞く

2023年4月30日

Forbes Japan Webからの転載です。

https://forbesjapan.com/articles/detail/62404

 

 

PwC Japan グループの木村浩一郎代表

 
経営者は、時代の変容に伴って次々と生まれる新たな課題に対し、スピード感のある対処を求められる。そのひとつがESG・サステナビリティだ。

複雑化する課題にどのように対処すればよいのか。情報開示の専門家でもあるPwC Japan グループの木村浩一郎代表に聞いた。

投資家が求めるのは「革新」

PwCでは、企業が直面する課題とニーズの本質を見定め、特に注力すべきフォーカスエリアを「ESG & Sustainability」「Data Analytics / AI Lab」「Deals Platform」「Digital Trust」「Risk & Governance」の5つに整理している。

このうち本連載のテーマでもある「ESG/Sustainability」について、経営者が注目すべき点とは。

まず前提として「ネットゼロ対応」があるという。気温上昇を1.5℃に抑えるために2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることを目標としている。そのためには世界では毎年15.2%脱炭素化を進めていく必要がある(ネットゼロ経済指標2022)。

「ネットゼロ経済指標2022」で行われたシミュレーションの図が興味深い。毎年15.2%の脱炭素化は、かなり困難を伴うだろう。


 

そして重要なのが、投資家だ。投資家は企業が収益を上げながらサステナビリティ課題に取り組むことを期待している。ただし、まずは「革新」を求めている(グローバル投資家意識調査2022)ことも分かっている。

 

投資家調査によると、「革新的」「収益性」「データセキュリティ」などが上位で、その次に温暖化対応が入る。ただし「革新的」にという項目には、環境問題を含む多くの問題への対処能力が含まれているのかもしれない。

非財務データからビジネス価値を生み出す

今日のサステナビリティ対応は、投資家による情報開示要請という点が、一昔前のCSRなどとは大きく異なる。

ESGを明確に打ち出した2006年の国連のPRI(国連投資原則)あたりから、財務情報のみならず非財務情報についても開示の要請が高まり、制度化が進んでいるからだ。

開示ルールの専門家としての木村代表の見立てでは、非財務情報の開示ルールは、比較可能性を求めて急速にルール化が進むという。一方、それぞれの企業の特色や社会のニーズがあるため、足並みを揃えてルールを確立するには、ある程度の時間がかかるとみられる。
すでに世界では、情報開示にとどまらず、ESGの情報開示のために収集した非財務データからビジネス価値を生み出す動きが出てきている。

木村代表が「日本企業はこれまで後れをとってきたデータドリブン経営を加速すべきだ」と指摘するように、日本企業は既定のルールに従う「規定演技」だけでなく、企業の特色を打ち出す「自由演技」での得意技を探す必要があるだろう。


サステナビリティをめぐる変革に必要なのは「Trust」

では、各企業での「変革」には何が必要なのだろうか。

木村代表は「持続的に成長することがこれほど難しい時代はない。ゲームのルールが目まぐるしく変わり、新たなテクノロジーが次々と生まれるから」としながらも、「企業が資本、人材、顧客を惹き付け、将来にわたって成果を出すためには、いち早く変化の波を捉え、弛みなくビジネスモデルを変革する、レジリエントな経営基盤を築いていく必要がある」と解く。

PwCでも2021年に、新成長戦略として「The New Equation」を掲げた。顧客が直面する課題に必ず存在する2つのニーズ、「Trust」(信頼の構築)と「Sustained Outcomes」(持続的な成長の実現)に応えるための戦略だ。

信頼の構築は持続的な成長の源泉で、この2つのニーズは切っても切り離せないのだという。昨今、これまでの制度や仕組みの限界が見え始め、社会における「信頼」が揺らいでいる。だからこそ、いまの時代に信頼ほど大切なものはないのだ。

この考え方は、サステナビリティをめぐる変革に応用できる。木村代表の言う通り、あらゆる課題解決においてこれまでの常識は通用しない。新たな仕組みづくりには既得権者も多く利害関係が絡んで「疑心暗鬼」が生まれるからだ。

このことは、筆者も31年間にわたる行政の経験で実感してきた。大きな変革には信頼が大前提で、まさに「新たな等式・公式(The New Equation)」が必要なのだ。

 

 

 

文=笹谷秀光 撮影=小田光二

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