2024年5月17日
東日本のハブ。さいたま市長に学ぶ「ポストSDGs」
日本経済新聞社の「第3回全国市区SDGs先進度調査」(2023年1月2日発表)において、全国1位の評価を得たSDGs未来都市だ。
SDGsが目標とする2030年に向けて折り返しを超えた今、SDGsの次を考える「ポストSDGs」の検討が必要とされている。今回は、筆者が実行委員長を務める「未来まちづくりフォーラム」内でのさいたま市長・清水勇人のスピーチから、ポストSDGsのヒントを探る。
清水勇人市長(左)と筆者
SDGs全国1位のさいたま市
「全国市区SDGs先進度調査」とは、日本経済新聞社が編集・発行する地方創生・地域経営の専門誌「日経グローカル」が実施する調査だ。 全国815市区を対象とし、SDGsの観点から、各市区の取り組みがどれだけ「経済」「社会」「環境」のバランスが取れた地域の発展につながっているか評価している。順位(昨年順位)、総合得点(100点)は次のとおり。1(1) さいたま市(埼玉県) 83.00
2(5) 豊田市(愛知県) 81.10
3(6) 福岡市(福岡県) 81.03
4(2) 京都市(京都府) 81.00
5(8) 相模原市(神奈川県) 80.45
5(4) 北九州市(福岡県) 80.45
7(49) 大阪市(大阪府) 80.33
8(9) 板橋区(東京都) 77.72
9(18) 豊島区(東京都) 76.84
10(11)神戸市(兵庫県) 76.78
大都市やSDGs未来都市が多く挙がる中、さいたま市は2年連続で1位を獲得した。
1位になった理由について、清水市長は、「PDCAサイクルの徹底や、ステークホルダーとの連携の強化を図っている。また、環境面では、国の地財対策も活用しながら、”2050年にゼロカーボン”に向けた取り組みを進めています。民間を巻き込む仕組みとしては、『SDGs企業認証制度』も効果的だと思います。これは、企業認証審査会(金融関係者も2人参加)で審査しています」と説明した。
東日本連携・創生フォーラム
さいたま市はSDGsの取り組みを推進するなかで「東日本連携・創生フォーラム」を立ち上げた。同市が音頭を取り、東日本の各新幹線沿線自治体の首長に参集を仰いで形成するフォーラムだ。
2015年の北陸新幹線延伸と2016年の北海道新幹線開業をきっかけにスタートした取り組みで、各都市の連携による地方創生と地域の活性化を狙う。国の関連機関、商工団体関係者、JR東日本なども参加する官民連携のフォーラムだ。第1回は2015年10月26日。当時の参加地域は、13都市+オブザーバー参加が4都市のみだったが、23年の第9回では30自治体にまで増えた。
清水市長はその狙いについて、次のように説明する。
「さいたま市は、大宮という新幹線の『交通の結節点』という強みを生かし、『ヒト、モノ、情報』の対流を生み出しています。本フォーラムは、広域連携による地方創生を目指す『この指とまれ方式』です。東京一極集中の是正や地域経済活性化のため『交流人口』の拡大を図るという狙いもあります」
さらに、東日本連携の拠点として、大宮駅前に東日本連携センター「まるまるひがしにほん」を開設。2022年度は92万人もの来場者があり、「ヒト・モノ・情報」の交流促進を行った。
市長によると、さいたま市に拠点を設ければ、東日本全体をビジネスエリアとすることができる。東京、神奈川、千葉、埼玉といった都心エリアの1都3県に、大宮と新幹線でつながる道県の人口を足すと、日本全体の約50%にもなる。
さいたま市がけん引し、経済活性化の起爆剤として新幹線を軸に市域・県域を越えた広域連携を実現するこのフォーラムは、今後の広域連携のモデルである。
新たなさいたま市の創造
こうした取り組みによって同市の魅力が高まり、「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」では、大宮が2位、浦和が10位にランクインした(1位は横浜)。大宮は3年連続トップ3で、今回は過去最高順位となった。同じ埼玉県内の浦和もトップ10に返り咲いている。
※この調査は、リクルートが首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)に居住している20歳~49歳の9335人を対象に実施し、 2024年02月28日に公開したものである。
市長は「市がこれまで育んできた環境、健康、スポーツ、教育、交通の要衝、災害に強いなどの魅力に一層磨きをかけて、”さいたま市らしさ”を深化させてきた成果ではないか」と自信をのぞかせる。
市のホームページでは、市長は次のように発信している。
「市の人口がピークを迎えると予想される2035年までの『シンカの10年」を作り上げていきたい。『シンカ」には3つの意味がある。1つは進める『進化』、2つ目は深める『深化』、そして3つ目は真の価値の『真価』だ」
さいたま市は、”シンカ”のための地歩を固めつつあると評価できる。
ポストSDGs
ここで、SDGsの現況とポストSDGsのタイムラインを確認しよう。SDGsは2015年9月に採択以降、4年ごとに見直し・評価されてきた。2019年、2023年と開催されてきたSDGサミットは、次回は2027年と、2030年まで残すところあと3年というタイムラインになる。
SDGsの前身であるMDGs(ミレニアル開発目標)の該当期間は、2000年〜2015年だが、すでに2013年からは次期の在り方について議論が始まっていた。これに倣うと、2027年にはポストSDGsの議論が始まるであろう。
これに向けて、日本の自治体、企業として行うべきことは何だろうか。ポストSDGsの議論をリードするには2027年から議論を開始するのでは到底間に合わない。国は今からSDGsの状況分析を重ね、2027年には提案をまとめておく必要がある。
幸い日本では、2025 年にあるSDGsをテーマとした大阪・関西万博等の機会を利用し、国際社会に対する発信を強化していくこともできる。
ポストSDGsの方向性
日本ではすでにSDGsを実践している自治体や企業が多いが、SDGsマークやバッジを付けただけでは期待した効果を出すのは難しい。自治体の取り組みや自社の事業について、17目標だけでなく169 のターゲットレベルまで当てはめ、その相互関係を意識する必要がある。これはいわば「規定演技」だ。そのうえで自身の強みを発揮する「自由演技」を進めなければならない。そのポテンシャルを持った自治体や企業はたくさんある。
自由演技の成果を踏まえ、SDGsの17目標では足りない部分を発見し、それを補完する。こうして、日本から新たな目標の提案につなげていくのである。SDGsのピクトグラムを並べた図版では「18番」の部分が空いている。つまり18番目の目標を提案していくのである。さいたま市が進める「東日本連携・創生フォーラム」にみられる「広域連携」は18番目の目標を考えるうえでのヒントになりうると筆者は考える。
今後ポストSDGsは、現在のSDGsの達成状況を踏まえた上で、より具体的かつ包括的な目標に向けて進化する可能性がある。国や地域がこれらの課題に対してどのように取り組むかが、ポストSDGsの鍵を握るであろう。
文=笹谷秀光