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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。「ポストSDGs」の観光まちづくりはニセコ町に学べ

2024年8月24日

「ポストSDGs」の観光まちづくりはニセコ町に学べ


  1. ニセコ町は、SDGs未来都市として住民政策と観光対応を関連付ける
  2. 小説家・有島武郎の「相互扶助」がニセコ町のまちづくりの基盤だ
  3. ポストSDGsでは、住民の協力の下で、地域資源の最大活用が重要だ

SDGs未来都市・北海道ニセコ町は、持続可能なまちづくりと観光の受け入れを両立させる包括的な戦略を展開する。この戦略は、住民向けの取り組みとインバウンド両面からアプローチし、地域全体の持続可能性を高めることを目指している。(千葉商科大学客員教授/ESG/SDGsコンサルタント=笹谷 秀光)

羊蹄山を望むニセコミライの工事中の現場、茶色の建物は完成済みの集合住宅

羊蹄山を望むニセコミライの工事中の現場、茶色の建物は完成済みの集合住宅

 

■スキーリゾートのニセコ町

ニセコ町は北海道の札幌市や新千歳空港から約100キロ西に位置する人口5065人(住民基本台帳人口、2024年6月30日)の町だ。

国際的スキーリゾート地だが、「通年観光リゾート地」として夏のアウトドアスポーツなども充実しており、日本国内のみならず国外からも多くの人が訪れている。2023年度の観光入り込み人数は約160万人(冬85万人、夏75万人)だ(ニセコ町調べ)。

「スキーとニセコ連峰」が「北海道遺産」に選定されている。2018年にSDGs未来都市・第一弾に選定された。

SDGsの推進に関連し、ニセコ町では、長年の課題であった住宅不足と産業を支える人手不足を解消するために、新たな住宅地の開発を進めている。

「ニセコミライ」と名付けられた「SDGs NISEKO生活・モデル地区」プロジェクトである(2022年度から造成工事が開始)。これは、市街地に隣接した9ha規模で、最大で450人が暮らせる町を建設するものである。新しい住宅地は、省エネルギー性能の高い住宅や再生可能エネルギーの導入を推進し、住民にとって快適な住環境を提供することを目指している。

老若男女が共に暮らし、多様性と対話が生まれる住環境を提供することを重視している。例えば、高齢者向けのバリアフリー設計や子育て世代に配慮した公園や保育施設の設置などが計画されている。

コミュニティガーデンや地元産品の消費を促進する取り組みを展開し、地域内経済循環を強化している。

ニセコミライの工事看板

 

環境保全とエネルギー効率化も重要な取り組みである。ニセコ町は、地域のエネルギー自給率を高める努力をし、リサイクルプログラムや廃棄物削減を推進し、循環型社会を目指している。これにより、地域住民の生活環境を改善し、持続可能な地域社会の構築を進めている。

加えて、教育と啓発活動も重要な要素である。ニセコ町は、持続可能な生活についてのワークショップやセミナーを開催し、地域住民の環境意識を向上させている。学校教育において、SDGsや環境問題についてのカリキュラムを導入し、次世代に向けた持続可能な社会の意識を育んでいる。

■持続可能な観光とインバウンド

ニセコ町は観光と地域社会の共生を図るため、持続可能な観光に向けたインバウンド戦略を展開している。観光客と地域住民が共に持続可能な未来を創造するための活動を促進しており、地元の文化や自然環境を尊重した観光プログラムを提供している。

具体的には、エコツーリズムや自然体験プログラムの充実を通じて、観光客に対する環境意識の啓発活動を行っている。

ニセコ町は、グラスゴー宣言やベストツーリズムビレッジ、グリーンデスティネーションズのトップ100選など、持続可能な観光に関する国際的な認証や選定を受けている。これにより、持続可能な観光地としての信頼性と魅力を高め、国際的な観光客も引き寄せている。

観光インフラの整備も進めており、環境負荷を最小限に抑えた宿泊施設や交通インフラの整備を行っている。公共交通機関の利用促進や自転車インフラの整備を進め、低炭素社会の実現を目指している。

パウダースノーや羊蹄山(蝦夷(エゾ)富士と呼ばれる)のような自然資源を徹底的に生かし、観光客の満足度を高め、地域の魅力を内外に発信している。

地域内経済循環の強化や環境保全の取り組みは、観光客にもプラスの影響を与える。観光客が地域の自然や文化を尊重することを通じて、地域社会と観光の共生が実現する。また、持続可能な観光インフラの整備は、観光客だけでなく地域住民の生活の質も向上させることができる。

住民側の取り組みと持続可能な観光のインバウンド戦略の組み合わせでシナジーを生み出し、地域全体の持続可能性を高めることを目指す。新たな住宅地の開発は、地域住民の生活環境を改善し、産業を支える基盤を強化するだけでなく、持続可能な観光の受け入れ体制を強化する役割を果たしている。

ニセコ町役場に掲示されている数々の認定や受賞

ニセコ町役場に掲示されている数々の認定や受賞

 

■町役場の開かれた雰囲気と担当者の熱意

持続可能なまちづくりと観光の推進には、町役場のスタッフのモチベーションの高さが重要である。彼らは、地域の資源に誇りを持って、住民や関係者を巻き込んで総合的にアプローチしている。

町役場は片山健也町長の下で、開かれた雰囲気を醸し出し、観光客や住民に対して親しみやすい環境を提供している。観光客が安心して訪れることができ、地域社会との交流も深まるという点で非常に重要である。

実際に筆者も町役場にアポイントなしで訪問したが、対応いただいた町役場の企画環境課 環境モデル都市推進係・永澤香さんからは、ニセコミライなどの説明をしていただいたが、丁寧な対応で親しみやすさを感じさせた。永澤さんは今後のニセコ町の持続可能な発展に寄与していきたいと熱く語っていた。




町役場の企画環境課 環境モデル都市推進係・永澤香さん(右)

 

■町のパーパス形成に役立つ有島武郎の思想

ニセコ町の開かれた雰囲気と町役場職員の熱意の源泉を考える上で、有島武郎の存在が大きいことが現地に行ってみて分かった。有島記念館では、有島武郎の持続可能なまちづくりの先駆的な取り組みが展示されており、その根幹には「相互扶助」の精神がある。有島は個人の利益を追求するだけでなく、地域全体に利益をもたらすという理念を実践し、これがニセコ町の基本的なパーパス形成に大きく役立っている。

有島武郎の遺訓である「相互扶助」の精神は、現在のニセコ町のまちづくりの重要なキーワードとなっている。この精神は、住民同士の協力や支え合いを促進し、持続可能な地域社会の実現に寄与している。こうした歴史的背景と地域の総合力が、ニセコ町の強みと特性を形成している。

有島記念館と羊蹄山

 

有島記念館と羊蹄山

■ポストSDGsに必須のパーパスと熱意

このように、ニセコ町は持続可能なまちづくりと観光の両面作戦を展開し、地域全体の持続可能性を高めることを目指している。有島武郎の思想や遺訓を受け継ぎ、地域の資源を最大限に活かしながら、住民や関係者を巻き込んで総合的にアプローチすることで、ポストSDGs時代に求められる持続可能な地域社会のモデルケースとなっている。

自然、歴史などの地域の資源を掘り起こし、関係者の理解と協力のもとでそれを有機的に結びつけることで、イノベーションが生まれ、持続可能なまちづくりが実現する。

永澤さんの話を聞きつつ、地域資源を活かすには、地域活性化を推進する人々の力が不可欠であると改めて実感した。ニセコ町の取り組みは、人々の力を最大限に活用することの重要性を再確認させるものであり、ポストSDGsに向けたヒントが満載だ。

ニセコ駅

ニセコ駅



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