笹谷秀光 公式サイト | 発信型三方良し

「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。6年で健康寿命が伸びた! 岡山市長に聞く「健康長寿社会」の成果(Forbes Japan Web)

2024年11月22日

 

6年で健康寿命が伸びた! 岡山市長に聞く「健康長寿社会」の成果

岡山市のシンボル、岡山城 / Getty Images

「SDGs未来都市」は、地方公共団体によるSDGsの取り組みをさらに推進していくために”モデル”を選定する試みで、2018年にスタートした。6年経った今、その成果が見えてきている。

今回は、この「SDGs未来都市」第一弾として選定された岡山市を訪れ、大森雅夫市長にインタビューを行った。2013年から市政を握る大森市長は、建設・国土交通官僚として培った知見を市政に反映し、都市インフラ整備や観光振興といったさまざまな施策において、その手腕を発揮してきた。

筆者は2014年に同市で開催された「ESD(持続可能な開発のための教育)世界会合」(ユネスコと日本政府の共催)に企業として関わり、その際に市長と意見を交わす機会があったが、久しぶりに訪れた岡山市で、街全体に持続可能な未来に向けた変化の兆しを強く感じることができた。

同市はそれ以降、健康、交通、文化の3つを柱に掲げた具体的な政策で持続可能な都市づくりを進めてきた。地域と企業が一体となってSDGsを基盤にした課題解決に取り組んできたようだ。


岡山市の都市づくりの大きな転機は、先述の「ESD」だった。これを機にESDの理念を都市政策の基盤に据え、持続可能な社会の実現に向けた教育の重要性を再認識。地域住民や企業が共にその理念を実現するべく、力を合わせるための政策が展開されてきた。

持続可能な社会に向けた教育の力を広めるため、「ESD岡山アワード」(グローバル賞や岡山地域賞)を設立し、世界中の実践事例を共有するプラットフォームを整備した。この取り組みは、単に地域内にとどまらず、国際的にベストプラクティスを共有し、実践を促進するための重要な基盤となった。

こうした取り組みが評価され、2018年のSDGs未来都市第一弾の選定につながる。当時の市長は「岡山が持続可能な都市としての責務を果たし、国内外のモデル都市として進んでいく覚悟を持っている」と意欲を示していた。

その後2023年11月に「岡山市SDGs推進パートナーズ応援団」を設立。SDGsに積極的に取り組む事業者を市が登録する制度で、2024年9月時点で336事業者が登録されている。SDGsに取り組む事業者のすそ野を拡大し、社会課題の解決と地域経済の活性化を目指しているのだ。
 

健康長寿社会の実現

大森市長がESDを契機に推進してきた政策の中でも際立っているのが、「健康長寿社会」にまつわるもの。従来の「無病息災」という健康観を超え、病気や課題を抱えていても生きがいを持って生活する「有病息災」を理念として掲げ、健康寿命の延伸を進めている。

その中心となるのが「健康ポイント事業」。市民が運動や健康的な食生活を実践することでポイントが貯まる仕組みで、生活習慣病の予防や医療費の削減に役立っている。特にフィットネスや栄養管理サービスを提供する企業がこの事業に参加することで、市民と企業が一体となって推進している。市のデータによると、2013年から2019年までに男性の健康寿命は71.59歳から72.13歳、女性は73.20歳から75.03歳に延びており、健康施策が市民生活にポジティブな影響を与えていることが見て取れる。

交通インフラの分野は、市内の9社の交通事業者と協力し、持続可能な公共交通網の構築を目指し、高齢者や交通弱者に配慮した移動手段の維持・拡充に取り組んでいる。

大森市長

地域経済の活性化のために

岡山市が目指す未来は、地域全体のウェルビーイングを実現する「持続可能な都市モデル」である。

そのために現在、大規模プロジェクトとして新アリーナ構想が進行中だ(2031年完成の見通し)。このアリーナはスポーツや文化の発信拠点として、地域経済の活性化に大きく貢献することが期待されている。

さらに同市は持続可能なお金の流れを生み出すために、企業のスポンサーシップや新しいビジネスモデルの導入などで民間との連携を進めている。例えば観光分野では「桃太郎伝説」を観光資源として用いたイベントやツアー展開など、地域資源を活用することで地域の活性化を図り、地域経済が循環する仕組みづくりを目指している。

こうした一連の取り組みは、経済、環境、社会の三位一体を目指すSDGsの理念を体現している。SDGS未来都市の選定時に示した三位一体の体系図が参考になる(図)。

2018年度自治体SDGsモデル事業提案概要事業名:誰もが健康で学び合い、生涯活躍するまちおかやまの推進 提案書より

その成功の裏には、大森市長の強力なリーダーシップがある。市長は、「市民の生活全体を幅広く見つつ、常に最適な判断を下す必要がある」と述べ、バランスを取りながら持続可能な都市づくりを進める難しさを認識している。この視点が同市の成功にとって最も重要な要素であり、持続可能な社会を築くためのカギとなっている。

ポストSDGsに向けたヒント

岡山市の取り組みは、SDGsが掲げる持続可能な目標を超え、次なる「ポストSDGs時代」を見据えたビジョンを形にしつつあるといえる。

ポストSDGs時代において求められるのは、単なる環境や経済の持続可能性だけでなく、地域社会に根ざしたウェルビーイング(幸福)の実現である。それをビジネスの創造性とイノベーションで実現するべく、企業が協力して、地域資源や文化を最大限に活かしながら持続可能な経済の循環を創り出すことが鍵となる。同市の挑戦が実を結べば、他の自治体にとってもひとつの道標となるであろう。

 

文=笹谷秀光

 
 
お問い合わせ
通信講座お申し込み