2026年2月28日
体験の力――青少年の生き抜く糧
文部科学省主催の「青少年の体験活動企業表彰」(いーたいけんアワード)は、自然や社会の現場を活用した「本物の体験」を青少年に提供する企業を顕彰する制度である。ここでいう体験とは、厳しい社会を自ら切り拓く「生き抜く力」を育むものであり、学校教育で培った知識や価値観を社会実践へと結び付ける。注目すべきは「生きる力」ではなく「生き抜く力」と表現されている点である。
教育現場の危機感を映し出し、体験の質が次世代を左右することを示す。筆者は第2回(2014年度)以来、審査委員を務め、多様な現場活動を見てきた。企業は「森育」「水育」「食育」など本業を生かしたプログラムを展開し、子どもに体験の場を提供している。
2024年度の文部科学大臣賞は、大企業部門がALSOK(綜合警備保障株式会社、東京都)、中小企業部門が株式会社三和製作所(東京都)であった。ALSOKは防犯や防災のリアルな体験、三和製作所は製造現場でのものづくり体験を伝えた。
こうした企業の体験活動はSDGsターゲット4.7に合致し、子どもの社会参画意識や実践的能力を育む。指導にあたる社員の学び直しやモチベーション向上にもつながり、企業価値を高める効果をも持つ。体験活動を通じた達成感や共感は一生を支える心理的資産である。企業はそれを社会全体に広げていく役割を担う。ビヨンドSDGs時代において、体験はウェルビーイングの基盤を形づくるのである。
最新の令和7年度の結果も発表された。
文部科学大臣賞は次の2社だ。
・「みらいを創る力を育む大和ハウスの「コトクリエ社会共育プロジェクト」」(大和ハウス工業株式会社)
・「秋田活性化中学生選手権」(株式会社秋田魁新報社)
筆者は今回も審査委員を務めた。
以下のサイトで審査員の講評を見ることができる。
文部科学省HP これまでの実績
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/taiken/1296811.htm
(うち、「令和7年度 審査結果・審査講評」に掲載)
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/taiken/20260226-ope_dev04-2.pdf
笹谷としての講評は以下のとおりで、ビヨンドSDGsに触れさせていただいた。
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令和 7 年度 審査委員講評
千葉商科大学客員教授、博士(政策研究) 笹谷 秀光 氏
ビヨンド SDGs とウェルビーイングでの体験活動の意義
SDGs の最終年である 2030 年が近づくなか、ビヨンド SDGs(ポスト SDGs)の議論がいよいよ本格化します。昨年には日本としての VNR(自発的国家レビュー)が発表され、国連では 2027 年から国際的に新たな枠組みに向けた検討が始まります。まさに今、次の時代を見据えた準備が求められるなかで、体験活動はその中核的役割を担い得る存在です。
私の専門である SDGs では、特に目標 4「質の高い教育」が本表彰制度と深く結びつきます。特にターゲット 4.7 に掲げられる「持続可能な開発のための教育(ESD)」は、体験を通じて価値観を形成するプロセスを重視しており、体験活動はこの教育理念を具現化する不可欠なアプローチです。社会課題に向き合い、実社会での学びを通じて自らの価値観を培うこうした実践は、青少年にとって将来の行動原理を形づくる基盤となります。
また、ビヨンド SDGs の時代においては、「人間の幸福」を軸に据えるウェルビーイングの概念が、社会全体の方向性を示す新たな基準になろうとしています。ウェルビーイングは、経済成長のみならず、心身の健やかさ、他者とのつながり、コミュニティの豊かさといった幅広い要素で構成される概念であり、体験活動はまさにこうした要素を総合的に育む場として機能します。体験活動は、青少年のウェルビーイングの向上に直結するものです。
また、企業にとっても、本業の強みを生かしながら体験活動の機会を提供することは、ビヨンド SDGs 時代の価値創造そのものです。これまでの CSR や SDGs の実践を深めて、企業自身の人的資本を育み、組織文化を刷新し、持続可能な社会の担い手を育成する「未来への投資」としての意味合いもますます大きくなっています。
こうした背景のもと、私は本表彰制度には第2回から審査委員として携わっていますが、企業が青少年へ提供する体験の価値を正当に評価し、広く社会に共有する極めて重要なプラットフォームとしてますます充実してきました。
未来社会を見据え、自ら考え、行動し、協働し、より良い社会を創り出していく力をもつ若者を育む取り組みは、ビヨンド SDGs の議論が進む中で、国際的にも高い意義をもつ事例として注目されることでしょう。
今こそ、これまでの体験活動表彰事例の集積をビヨンド SDGs でのいわば「自由演技」集として国際的にも発信していくべきです。本制度が、未来の担い手を育み、次の時代にふさわしいビジョンを示す活動を後押ししていくことを大いに期待しています。


