2018年3月29日
笹谷秀光の「協創力が稼ぐ時代」<第6回>
美的・次世代マーケティング※月刊総務オンラインからの転載
2018-03-29 16:00
パリのルイ・ヴィトン
パリのヴァンドーム広場。ココ・シャネルが住んでいたり、ナチス時代に本部が置かれ、映画「パリは燃えているか?」に出てくるパリの爆破をヒトラーに命令され拒否したコルティッツ司令官などで歴史上有名なホテルリッツのある広場です。筆者がパリで最も好きな広場です。2017年10月にパリを訪れた時の印象をお話しします。
このヴァンドーム広場に行く前に、はっとするようなビル全体へのラッピングが目に入りました。景観規制の厳しいパリですから許可を取ったのでしょうか。
良く見るとルイ・ヴィトンの入ったビルでした。ルイ・ヴィトンと言えば、建築家のフランク・ゲーリーの手で2014年に誕生したパリの「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」(ルイ・ヴィトン美術館)がブローニュの森にあります。
フランスをはじめとする世界各国の現代芸術の創作活動を支援し、多くの人々にその作品を紹介する複合文化施設だそうです。公式サイトを見ると興味深いです。
http://www.fondationlouisvuitton.fr/ja.html
最近、有名ブランドもこのような美や環境を企業の志(「パーパス」と言います)として打ち出すところが増えています。モノを売る時代から、美や価値創出を売る時代への変化を感じさせます。ルイ・ヴィトンのこの取り組みは、まさに「美的マーケティング」です。
この点に関連して、オルタナの小松遥香さんの次のサステナブル・ブランド(オルタナ)サイトでの記事が秀逸です;
「高級ブランドが相次ぎサステナビリティ・シフト加速」http://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1190318_1534.html
建築と街並みが今後の重要な価値
ブローニュの森にあるルイ・ヴィトン美術館の建物はひときわ目を引きます。
フランス人は、昔も今も、建築価値を重視する国民性を持っています。例えば、観光の「緑のミシュラン」日本版では、銀座の国際フォーラムのガラス棟やエルメスのビルが三ツ星になっています。
国際フォーラムは今後東京五輪・パラリンピックも控え、MICE需要も盛り上がり、インバウンドのインフルエンサーが多く訪日するのでチャンスです。
近くには、まちづくりでグッドデザイン賞を取った丸の内仲通りもあります。今やパリのブランド街の通りのようなおしゃれな街並みになりました。グッドデザイン協会の展示店もあります。この丸の内仲通りの周辺は、三菱地所グループやその関係者が力を入れるエリアです。
「三菱地所を見に行こう」
この宣伝の伝え方が大好きなので、「パリにもあったはずだな」と思い、見に行きました。
周りの歴史的な建物の中でひときわ目立つガラス張りのモダンなビルでした。欧州進出の一つの拠点にするそうです。
2014年12月に開設されたオフィスビルで、「46 Rue La Boétie」にあります。凱旋門やシャンゼリゼ通りからもほど近いパリ中心部の8区に位置し、三菱地所グループとしてはヨーロッパ大陸に保有する初の物件だそうです。
このビルのあるボエシー通りは、オスマン通りやサントノーレ通りといった著名な大通りの間に位置しています。
三菱地所は「人を、想う力。街を、想う力。」がキャッチフレーズでエリアマネジメント力を磨いています。この「想う」というのが含蓄深いです。今後の展開が期待されます。
パリのユニクロ
パリのブランド街の一つ、マレ地区は、シャネルなどもありシックな街並みです。
その中に日本のユニクロの店舗があります。おなじみのロゴが小さく出ていました。店舗に入ると日本のユニクロとは様相が違います。美的オブジェを置いたコーナーもあり、「奥の院」のようなところにヒートテックのコーナーがあります。日本のクールジャパンの技術を売り込んで、評判が高まっています。
ヒートテックの効果の「魅せ方」は、SDGsを思わせる、言葉のいらないピクトグラムが功を奏しているようでした。
近くには「MUJI」もあります。もはや、これが日本発の「ブランド」と思うフランス人はいないかもしれません。
パリは美的マーケティングのプラットフォーム
このようにパリで現地化すると何でもおしゃれになります。パリはすごい「器」だと思います。換言すれば「プラットフォーム」です。
それは数々のイノベーションを生んできた都市だからでしょう。
ちょうど「Nuit Blanch」(白夜祭り)というイベントをやっていて、例えば、歴史を感じさせるパリ市庁舎前で現代芸術のパーフォーマンスを市民参加型でやっていました。
パリの美的・次世代育成
パリにはどうしてこのような活力があるのでしょう。その一端は次のようなことかもしれません。私の著書の一節をご紹介します。
フランス・パリの住宅街16区にマルモッタン美術館があります。印象派の由来となった、モネの『印象、日の出』という有名な絵がある美術館です。筆者はここが好きで、パリに行くとよく訪れます。そんなある日、興味深い光景を見ました。
フランスの小学生十数人が、教師に連れられてこの絵を車座で囲んでいます。教師がこの絵を見てどう思うか問い掛けます。小学生は「光が美しい」などさまざまな感想を述べ、教師は双方向の方法で実践的授業を進めています。
「なぜそう感じるか」「絵の描き方にどんな工夫があるか」など、小学生相手とは思えないやり取りをしているのです。解説するのではなく、絵を見て考えさせています。「なるほどなぁ」と感心しました。
本物の名画を見て小学生が「気づき」を持ち帰ることで、斬新なアイデアや美的感覚を持つ人材が生まれます。フランスでは、個人の才能を花開かせる教育が威力を発揮しているのでしょう。その才能の発揮が効果的な仕組みやコミュニティづくりにつながっているのです。
斬新なアイデアや構想が採用されるよう、多様性(ダイバーシティ)を認めて社会のダイナミズムを保持しています。フランスは少子化問題も乗り越えました。内閣の閣僚の半数が女性です。
経済では必ずしも成功しているとはいえませんが、美感覚・景観・まちづくり計画に関しては、やはり欧州の中でも随一といっていいでしょう。
パリの建築中の覆いに見る美の追求
パリ16区、―筆者がかつて住んでいた住宅エリアで面白いものを見つけました。
ビルの改装の建築現場で「覆い」をしてそこに絵をあしらって景観に溶けこませています。ブルーシートやプラスティックの囲いではなく、建築中でも周りの景観に配慮にする工夫と姿勢には学ぶ点が多いと思いました。