2017年11月28日
経営感度を磨く社会の読み方<第17回>
協創力が稼ぐ時代の「協創の鼓動」
2017-11-28 08:20
日本創生・地方創生では、いうまでもなく、それを担う市民はもちろん、企業人も含めた地元の人が主役です。そのためにみんなで知恵を出す「協創力」の活動の共通基盤を私は「プラットフォーム」と呼んでいます。今回は「産官学金労言」のプラットフォームについて、『月刊総務』2015年12月号の石破茂大臣(地方創生担当相)との特別対談でも触れ、拙著『協創力が稼ぐ時代』でも紹介した福井県鯖江市の実例から、その後の動きも加えて、考えましょう。
「お役所仕事」
まずは余談から。市役所といえば、「お役所的な仕事ぶり」の弊害が話題になります。それを実に見事に表現した、黒澤明監督の『生きる』という名画があります。
主人公は市役所の定年間近の「市民課長」で、ことなかれ主義の中で毎日を暮らしていますが、ある日胃がんで余命半年と通告され、これを機に目覚めて市民公園を造る決意をする、というストーリーです。役人の習性やセクショナリズムが黒澤監督の絶妙な語り口でよくわかります。私も元役人ですので、苦笑いするシーンがいくつもありました。
今回の地方創生ではこのセクショナリズムの打破と行政の「ワンストップサービス」が求められています。
地方創生にどのような目標を持つのか
各自治体の地方創生の実施には「条例」制定も重要です。たとえば、「まちづくり条例」が代表的です。条例は自治体の政策の重要な手段で、地方創生の制度面からの動きとして今後増えると思います。「まちづくり条例」には、景観・開発規制・建築規制のほか、まちの資産を生かし個性を引き出すための地区計画支援型や住民参加型等のものもあります。
このほかに、仕事の進め方や目標の持ち方で大変参考になるのが「市民主役条例」です。
石川県加賀市の条例(2012年4月)の前文は市民への語り掛けの形で、今後の地方創生の基本項目が盛り込まれています(図表1)。
市民主役の実践:福井県鯖江市に見る
福井県鯖江市は、市民主役条例(2010年3月)の草分けです。2014年からは、「JK課」で市民参加を推進しています。「JK課」とは「女子高生の課」のことです。
正式な部署ではありませんが、仮想的に「課名」を模した市民主体のプロジェクトで、市と市民によるまちづくり協働事業の一環です。「鯖江市民主役条例」の第一条「目的」では「自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進める」としています。
JK課をサポートする体制として、鯖江市役所はもとより、民間と行政の協働、市役所内の全女性職員による支援、プライバシー保護などの工夫が見られます。事業は慶應義塾大学SFC研究所の協力も得ており、「学」も参加した幅広い関係者の協働のプラットフォームです。
「JK課」の成果として、JK課をITコーディネート面で支援する福野泰介氏(情報処理の株式会社jig .jp 社長)から図書館アプリ「sabota」の話を聞きました。
女子高生たちが「図書館を利用するときに空席情報があればいいな」と考えて提案したそうです。福野氏は、女子高生を指導して図書館の机に簡易センサーを設置。お得意の情報処理技術でデータ処理し、図書館の空席状況をスマホでリアルタイムに確認できるアプリを作成しました。ビッグデータの活用を進める鯖江市ならではの成果です。「sabota」とは、「さばえ(sa)本(bo)データ(ta)」のことです。
JK課が生まれ1年経ち、2期生の募集も行われました。筆者は今は学生になっている、昨年のJK課のメンバーの方と懇談し、とてもしっかりした発言力に驚きました。「JK課の経験が自信につながっている」といっていました。
牧野百男市長にお会いしたときに「JK課は『無関心層の掘り起こし』や『今までの価値観とか常識を変える』ために、女子高生の力を借りたいというところから始まった」と語っていた熱い思いを想起させました。これは一朝一夕に始まったわけではなく、全国に先駆け早い時期から「市民主役」のまちづくりを進めてきた鯖江市ならではのステップです。
JK課に負けじと「OC課」(おばちゃん課)も誕生し、女性目線での政策提言につながっています。
「市長をやりませんか?」で感じる「協創の鼓動」
先日、9月14日に実施された学生版の「第8回鯖江市地域活性化プランコンテスト」で、筆者も審査員を務めました。このコンテストは「市長をやりませんか?」がキャッチフレーズ。全国の大学生、大学院生が応募して鯖江市長になったつもりで活性化プランを競うものです。
全国から選抜された学生24人・8チームが3日間、本山誠照寺で合宿して市の現状、問題点などを調べ、コンテストではその解決策案を発表しました。主催はプランコンテスト実行委員会、共催は鯖江市です。決勝審査委員は鯖江市長の牧野百男氏をはじめ、「産官学金労言」のほとんどが参加しています(図表2)。政府が呼び掛ける「産官学金労言」はこのように身近に見いだすことができ、これをいかに「協創」につなげていくかがポイントです。入賞作は実際に市が実行に移していくそうです。この内容は、福井新聞などでも取り上げられました。
鯖江市では、情報共有とICTを活用した「オープンデータ事業」を全国に先駆けて実施しています。行政保有のデータを民間で活用する方策です。行政は膨大なデータを持っていますが、各担当がそれぞれいろいろな形式で保管していて、これでは活用できません。
地元のIT企業が市にデータを提供してもらい、たとえば、どの場所に避難所やAED(自動体外式除細動器)、トイレ等があるか手軽にスマホの画面で確認できる、優れもののソフトを開発しました。総務省の報告書にも、先進事例として挙げられています。公益性・社会性の高い市民生活に役立つサービスであり、一方、開発するIT企業にはビジネスチャンスが生まれます。
鯖江市は、2005年に眼鏡産地生誕100周年を迎え、国内の約9割、世界の約2割の眼鏡フレームを生産。この技術とICT技術で、最先端のウエアラブル端末や医療用眼鏡への進出を目指しているのです。
(『月刊総務』2015年12月号より転載)
(参考)拙著『協創力が稼ぐ時代』と特別対談
拙著『協創力が稼ぐ時代』出版記念で、『月刊総務』2015年12月号で石破茂大臣(地方創生担当相)との特別対談が掲載されました。