2017年11月28日
経営感度を磨く社会の読み方<第16回>
協創力が稼ぐ時代
2017-11-28 08:15
『協創力が稼ぐ時代』 —— これは、私の新著のタイトルです。本誌を発行するウィズワークスから2015年10月に発売。副題は「ビジネス思考の日本創生・地方創生」です。『月刊総務』はその表紙に「新しい価値を生み、組織・人事のチカラになる」という理念を掲げています。この理念に即して執筆してきた本連載のさまざまな「ストーリー」を、体系立ててまとめたものが本著です。今回は、本書のご紹介も兼ねて、今なぜ「協創力」が必要なのかご説明します。
今なぜ「協創力」が必要か
「協創力」とは、みんなで連携・協力して新たな価値を生み出すことです。今日ほど、人と人のつながりによる「協創力」が求められる時代はありません。それは、課題先進国である日本では、各関係者が各自で解決できる課題が限られるからです。
今は、関係者が相互に補完し合いながら横に並ぶ(「フラット」という)形で知恵を出していく、「協創」という手法が求められます。
地方創生では、政府が、産業界・行政・教育・金融・労働・メディアの「産官学金労言」の連携を呼び掛け、それぞれが強みを発揮しつつ相互に補完していくことが必要です。
政策等で「協創」を促す場、価値の創造を促す活動の共通基盤という意味の「プラットフォーム」が重要になりました。参加者が役割分担して価値を最大化していくのです。
新グローバル時代の到来と「協創力」
「協創力」が必須になった第一の理由はグローバル化です。グローバル化で課題が複雑化しています。
喫緊の課題である、東京五輪後に子孫に良いものを残す五輪レガシー(遺産)のためにも、日本の良き伝統や文化を伝承していくためにも、みんなで連携・協力して新たな価値を生み出す「協創力」が必要です。
筆者の外交経験から見ると、2013年から2015年は、歴史の「記録」と「記憶」に残る年になるでしょう。日本人にとってたいへん身近な、和食(無形文化遺産)、手漉(てすき)和紙(無形文化遺産)、富士山(文化遺産)や、「富岡製糸場と絹産業遺産群」「明治日本の産業革命遺産」などの文化遺産が立て続けにユネスコで登録されました。その底流には「持続可能性」、つまり、子孫につなぐ社会・環境という価値観があります。
これからは、日本の「良いもの」「かっこいいもの」を日本人が自ら「気付き」、これを「クールジャパン」としてわかりやすく発信していくことが必要です。グローバル化は急速に地方にも押し寄せ、年間1400万人を超える訪日外国人の「インバウンド消費」が全国でうねりを見せ、身近なところでも世界に通用する対応が求められる時代がやってきています。その上、ICTの著しい進化で、情報が動画サイトやSNSなどで瞬時に世界に伝わるという変化も見落とせません。
こう見ると、(1)世界に通用する価値観の理解、(2)インバウンドへの対応、(3)ICTの著しい進化の3つの重要性が高まった「新グローバル時代」に入ったといえるでしょう。
地方創生と「協創力」
「協創力」が必要な第二の理由は、地方での「課題の複雑化」です。
たとえば、「ジビエ」とは美食の国フランスで珍重される野獣料理ですが、なんと日本では農山村の「鳥獣被害対策」の一環として、捕獲された鳥獣を食肉として積極活用していくことが検討されています。過疎化した農山村でイノシシ・シカ・クマなどが闊歩する一方、猟銃有資格者は激減。人と自然との共生の崩壊を示す象徴的現象です。
また、中心市街地の「シャッター街」。高齢者が健康のために歩くにも店は閉まり、運転免許証を返上して公共交通に乗ろうとしても赤字路線で廃止されています。
このような中、富山市は中心市街地対策で地域の「良いもの」を徹底して掘り起こし、企業も巻き込んだ「ビジネス思考」で活性化に取り組んでいます。
富山市に学ぶ「まち・ひと・しごと創生」
富山市はパリと並ぶコンパクトシティの先進事例です。パリ、メルボルン、ポートランド、バンクーバーとともに、OECD(経済協力開発機構)でコンパクトシティ政策の事例研究の対象に選定されています(2012年6月)。
インフラ整備では、ライトレール(LRT)や中心市街地を通る環状線「セントラム」等の導入を行いました。さらにソフト面では、LRTや地方鉄道と連携して高齢者の料金を100円とする「おでかけ定期券」事業を実施。また、市内の対象施設(ファミリーパーク、科学博物館等)と連携し、「孫とおでかけ」すると入場料が無料になる事業も実施しています。中心市街地活性化と高齢者政策・健康政策を複合的に組み合わせた、共有価値創造の政策です。鉄道会社や施設にとっては乗客・来訪者増加という本業への好影響が、高齢者と家族にとってはお出掛けによる健康効果や安価で学習できる効果が、市にとっては中心市街地の活性化や医療費負担の軽減が期待できます。
自治体の「まち」づくりは、ハード面とソフト面の幅広い課題解決に関連する社会的投資活動であり、OECDが示す「センス・オブ・プレイス」という考え方が興味深いです。「その場所を特別と感じさせる何か」、要すれば町の個性のことです。富山市では、花によるうるおいのまちづくりも進めており、随所にハンギングフラワーがあって美しく、一定の要件で花束を持って電車に乗ると無料になる「花Tram」というシャレた政策まで実施。まさに「センス」を感じさせます。
いずれも、関係者連携による「協創力」を引き出す「場」として、活動の共通基盤(プラットフォーム)をつくり、複雑化する一方の課題の解決に企業の力を活用しています。
この富山市で先日、異文化経営学会の北陸部会の設立総会がありました。新幹線も開通し注目を浴びる北陸に、いち早く部会を立ち上げたことはすばらしく、筆者もメンバーとしてプレゼンに駆けつけました。
中心市街地に完成したばかりの富山市ガラス美術館を見学しました。これは、図書館やミュージアムショップなどからなる複合施設「TOYAMAキラリ」の中に整備されています。世界的建築家である隈研吾氏の設計によるそうです。もちろん「孫とおでかけ」支援事業の対象施設です。また富山を代表するお祭り「おわら風の盆(前夜祭)」の見学会も行われ、異文化を感じさせるすばらしい踊りが夏の終わりを彩り、歴史・伝統と最新のガラス美術館の組み合わせで、富山市の奥深さを感じました。新著でも触れましたが、富山市は「まち・ひと・しごと」という複合課題を解決するための「協創力」とは何かを考える上でヒントが満載です。
折しも、伊藤園では秋を先取り、パッケージに紅葉をあしらった「お〜いお茶」シリーズの秋バージョンの発売が始まりました。今回は「実りの秋」の代表であるごはんとの相性を訴求しています。
(『月刊総務』2015年11月号より転載)