2017年11月28日
経営感度を磨く社会の読み方<第14回>
アンテナショップの激戦区レポート
2017-11-28 08:05
前回述べた「発信型三方よし」は、インバウンド消費のうねりの中で内外にわかりやすい形で行う必要があり、「アンテナ」が重要です。
アンテナショップを直訳すると!?
「アンテナショップ」をそのまま訳すと「テレビなどのアンテナを販売している店」と誤解してしまいます。「ローカル・スペシャリティ・ショップ」という地域活性化センターの訳は「なるほど」という感じがしますね。同センターでは、地図上で各アンテナショップの位置情報を表示するだけでなく、飲食店併設かどうか、Wi‐Fiの有無、免税店かどうかなども、表示マークを用いて一目でわかるように工夫を施したとのことです。
アンテナショップの激戦区、銀座
東京都中央区銀座一丁目は、アンテナショップの激戦区です。有楽町のソニービルを起点に、近辺を回ってみました。
同ビルから東京駅方面に5分くらい歩いたところに石川県の「いしかわ百万石物語・江戸本店」があります。もっとも新しい一店です。石川県観光PRマスコットキャラ「ひゃくまんさん」が玄関に置かれ、店内には北陸新幹線開通に伴う観光カウンターもあります。
同店の運営はカラオケをはじめ、幅広いサービスを手がける総合サービス企業グループのシダックスです。民間企業のノウハウが生きていて、ほかの店に比べすっきり感とオシャレ感が感じられ、今後必要となるビジネス感度の高い運営のヒントになります。また、同店で販売している地方創生交付金を使った「プレミアム商品券」は、3,500円で5,000円分の商品を購入できるプレミアム率30%の商品券で、このアンテナショップでのみ使えます。代表的な交付金の使途の一つです。
2軒隣が沖縄県の「銀座わしたショップ」です。歴史は古く、イート・インのソーキそばが人気です。沖縄伊藤園の「やんばるの茶畑で採れました。」という地域活性化に貢献する緑茶飲料も購入できます(山原は沖縄本島北部の自然が多く残る地域)。
そのすぐ隣は、坂本龍馬像が出迎えてくれる高知県の「まるごと高知」。本連載の第2回で触れた、「高知家」というコンセプトのブランド化が進んでいます。1階の食品売り場に年間売上ランキング(2013年度)が貼ってありましたが、第1位「万能おかずしょうが」(四国健商)、第2位「まじめなおかしミレービスケット」(野村煎豆加工店)ともに「高知家」ロゴ付きです。高知県は日本一のしょうがの産地です。「高知家」というブランド化を官民で進めている成果が出ています。
まるごと高知の少し先には、2012年の茨城県民の日にオープンした「茨城マルシェ」。入り口には「ハッスル黄門」がおり、店内の真ん中に「ねば〜る君」とともに納豆商品が並びます。
館内で、『つくばスタイル』というタイトルの雑誌を見つけました。つくばスタイル協議会(茨城県、都市機構、つくば市、つくばみらい市、守谷市)が、つくばエクスプレス沿線の「つくばスタイル」をブランド化させ、大きな動きへと発展させる努力をしています。ライフスタイルのブランド化は、都市、自然、知の3要素からなります。雑誌のほか、ホームページでは宅地分譲情報や事業用分譲地情報を入手できます。2015年3月に開業した「上野東京ライン」のポスターが、利便性が上がったことをアピールしています。
「食育」と地産「東」消レストラン
その向かいが福井県の「食の國福井館」です。名物の越前おろしそばを注文して待っている間に、「食育のさきがけ 石塚左玄」というポスターに気が付きました。石塚左玄(いしづかさげん)は福井県出身の明治時代の軍医で、明治31年(1898年)に『通俗食物養生法』の中で「今日、学童を持つ人は、体育も智育も才育もすべて食育にあると認識すべき」と、「食育」をすでに提唱していました。福井県が食育に力を入れている理由がわかります。
そこから左折して、松屋銀座の方に向かう途中に山形県と広島県のアンテナショップがあります。
「おいしい山形プラザ」では、吉村美栄子県知事の幟と山形県を代表するお米「つや姫」の幟がたなびいています。2階の山形イタリアンレストラン「San Dan Delo サンダンデロ」の今日のメニューは、羽黒の山伏豚のグリル、酒田港ホウボウと春野菜がメインです。帰りがけに目につくポスターでは、「きてけろくん」という、さくらんぼを帽子につけたご当地キャラが「ようこそ山形へ」といっています。
このレストランと、近くの広島ブランドショップ「TAU(たう)」の3階にある、広島がきなどの海産物を活用する、同じくイタリアンレストラン「Paccio(パッチョ)」は甲乙つけがたく、店の選択で迷うほどです。1階の喫茶コーナーでは、楽天ランキングのジェラート部門第1位(2015年7月8日現在)の瀬戸田町「瀬戸田ドルチェ」の国産レモンのジェラートを食べられます。パフュームの3人組が出身地を応援するポスター、ご当地球団広島東洋カープ一色のコーナーや広島お好み焼きの店があり、広島県を訪れた気分になります。
また、伝統工芸品指定の熊野筆のセレクトショップも併設。熊野筆の化粧用の筆はパリコレ御用達ともいわれ、パリのファッションショーでブレークしています。まさにクールジャパンといえます。
これらはアンテナショップの役割である「地産東消」、つまり、地域のものを東京で消費して全国、世界デビューにつなげるものです。
老舗、最新、二県コラボ
ソニービルの方に少し戻ると、銀座のアンテナショップの元祖的存在の「銀座熊本館」があり、「くまモン」のポスターが20周年を迎えたことを伝えています。
新しいのは2014年に開店した長野県の「銀座NAGANO」で、銀座四丁目交差点に近い位置です。善光寺に関連する販売行事が正面に据えられていました。
さらに有楽町駅前の東京交通会館にも多くのショップがあり、特に香川・徳島トモニ市場が近県との協働で注目されます。新橋駅前には「香川・愛媛せとうち旬彩館」もあり、入り口に「五百万人突破」と貼ってありました。レストランは盛況で、うどん県香川の讃岐うどんに愛媛県南予地方の特産品じゃこ天を組み合わせることができます。今後複数県のコラボは相乗効果が高く、一つの可能性だと思います。
アンテナショップの新傾向
共通点は、地元新聞の販売、観光情報コーナー、出身有名人のサイン色紙の掲示で、これに加え最近では移住交流・就職相談コーナーが、どの館にもあります。イベントも企画され、特に食品は「旬」を大事にしています。「アンテナ」ショップの地方創生での役割が注目されます。
銀座は東京を訪れた外国人が必ず訪れる場所です。東京五輪を控え、今後、急速に外国人が増えインバウンド消費に結び付く可能性を秘めています。
(『月刊総務』2015年9月号より転載)