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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。経営感度を磨く社会の読み方<第18回> 統合報告書による発信 「協創」のストーリーを語る

2017年11月28日

経営感度を磨く社会の読み方<第18回>
統合報告書による発信
「協創」のストーリーを語る

2017-11-28 08:25

「発信型三方よし」の実践で重要な「発信」では、広報のみならず、総務はもちろん、CSR、経営企画など各部署の協力が必要です。各社の統合報告書などが出そろう季節ですので、今回はこれらを例に「パブリックリレーションズ」の視点から発信を考えましょう。

「パブリックリレーションズ」とは何か

 企業・組織が他者と関係構築をして相互に「気付き」を得るための基本手段が広義の「対話」であり、「お互いに知る・学ぶ・つながる」というサイクルです。自分がどう考えているかを、相手の立場に立って、正しい情報を誠実にわかりやすい形で伝えることが大切です。
 情報を伝えると、相手との間にやり取りが始まります。相手からの反応によっては、こちら側の対応を修正しなければいけない事態もあります。単に修正するだけではなく、相手からの刺激で新たな要素を取り入れることもあります。これが革新(イノベーション)につながります。
 この一連の「双方向」のコミュニケーション活動が「パブリックリレーションズ」といわれるものです。この分野の専門家である、井之上喬氏の『パブリックリレーションズ[第二版] —– 戦略広報を実現するリレーションシップマネジメント』(日本評論社)が大変参考になります。日本ではパブリックリレーションズというと「PR」のことで、宣伝のように捉えたり、単なる「広報」と捉えたりしがちですが、本来的な意味では、パブリック(多様な関係者)とのリレーション(関係)を構築していく活動です。
 企業が何を考えどのような目的や使命感を持っているのか、関係者に伝え、ともに考えます。特に、アウトバウンドのみならず、インバウンドで海外からのお客さまが急増している今は、多様な価値観の人々が相手なので、もう一段の工夫が必要です。今こそ本来的意味の「パブリックリレーションズ」を実践しましょう。

「発信型三方よし」で企業の「顔」を見せる

 世界、特に欧州の企業は、姿勢や使命を明確に発信している例が多く、その結果「顔の見える組織」となっています。これからは、企業・自治体を問わず、あらゆる組織が「顔の見える組織」となり、その集合体として日本が「顔の見える国」になっていくべきです。
 関係者は、どのようなリーダーの下でどのような社員が商品やサービスを提供しているのかに関心を持っています。今後、各企業は、「発信型三方よし」の実践により、世界に向けての発信とコミュニケーション活動を強化することが必要です。
 この関連で、安倍政権の成長戦略の柱の一つに、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の強化があります。2014年の会社法改正にも関連して、企業統治を強化し、海外も含めた投資家からの信頼度を高めるねらいです。
 具体的には、機関投資家に対して、株主として投資先の企業と「対話」し、中長期的な企業価値を高めて顧客や受益者の投資リターンを拡大させる、という方向でその行動規範が定められました。企業に対しても、持続的な企業価値の向上のため、関係者への説明責任や企業統治強化のための行動規範が策定されました。今後は、自己資本利益率(ROE)の向上を求める動きが強まり、機関投資家や幅広い関係者の関心事項をいかにわかりやすく説明していくか、ここでも、企業の対話力が試されることになります。

経営者は価値創造のストーリーを語れ

 企業は、ヒト、モノ、カネ、情報を使った活動により価値を創造しています。今後はさまざまな資本(財務、人的、製造、知的、社会関係、自然の各資本がIIRC〈国際統合報告評議会〉から示されています)を使ってどのような価値を創造しているか、という点をわかりやすくストーリーで語ることが推奨されます。
 これまで企業からの情報発信は網羅的過ぎて重点がわかりにくくなっている面がありました。そこで、企業活動にとって重要となる分野(マテリアリティ)を関係者の意見も聴いて選定し、関係者にわかりやすく正確に伝えていくという方向性が示されています。「骨太のわかりやすい」ストーリーが必要です。
 企業の発信内容には、大別して財務情報と非財務情報があります。最近は非財務情報が、企業の投資価値を測る新しい評価項目として重視されています。これまで財務情報に関心のあった関係者は、財務上の成果の背景としての非財務情報も求めています。この結果として、財務情報、CSR情報等、企業のコミュニケーションツールを統合する「統合報告」の動きが強まっているわけです。

特色ある発信事例に学ぶ

 国際標準「社会的責任に関する手引」(ISO26000)では、CSR報告書や統合報告書などの信頼性を確保するため、有識者などとの会合、「ステークホルダーダイアログ」(以下「SHD」)などで、さまざまな関係者とのコミュニケーションとその結果の発信を重視しています。
 伊藤園ではこれを特に重視し、その結果の活用でも特色があります。
 2012年には、メディア5紙(日本経済・朝日・読売・毎日・産経の各新聞)の論説委員などと有識者が一堂に会してSHDを実施しました。メディアからの発信性の強化が必要という提言も踏まえ、結実したのが「お茶にまつわる7つのストーリー」と題する冊子(CSR報告書2013のコミュニケーション編。その後、定番資料化して現在も活用)です。この冊子は、伊藤園のCSVが生まれる「協創力」を、まさにストーリーとして提示したものです。
 2014年11月には文部科学省主催「ESD交流セミナー」(名古屋市で開催の「ESDユネスコ世界会議」の併催イベント)に応募・選定され、当社企画シンポジウムを開催しました。これは、文部科学省の設定する場での公開SHDであり、発信性が高いものです。
 伊藤園は、2011から2014年の4年間にわたり、累計14回SHDを実施しました。5年目を迎えた2015年度は、当社のバリューチェーンや価値創造を中心に、経営上の重点事項を総括する有識者会合として7月に「マテリアリティ・レビュー・ダイアログ」を実施しました。この結果は、マテリアリティの確認と設定に反映され、「伊藤園レポート2015」で紹介しています。
 伊藤園では、発信面にも力を入れ、「2012 CSR報告書」以降、新機軸を毎年打ち出し、「2014 CSR報告書」は環境省・一般財団法人地球・人間環境フォーラム主催の「環境コミュニケーション大賞」の優良賞を受賞しています。
 2015年度は財務・非財務情報を統合し、一冊で理解できリーダビリティ(読みやすさ)も考慮した統合報告として「伊藤園レポート2015」を発行しました。また、これを非財務情報面で補完する(1)「サステナビリティレポート2015特集編」(マテリアリティを考慮した特集や有識者意見を中心に構成した別冊子)、(2)「報告編」(実績報告中心)、(3)「お茶にまつわる7つのストーリー」の三部で構成されています。ホームページには以上のすべてが開示されていますので、ぜひご参照ください。
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 今回の報告書は、バリューチェーンでの各段階での財務・非財務の価値創出にも焦点を当てました。ステークホルダーの幅広い関心に応えられるよう、「発信型三方よし」を実践しています。
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(『月刊総務』2016年1月号より転載)
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