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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。経営感度を磨く社会の読み方<第10回> 産業集積で日本再生 —クラスターとは何か—

2017年8月29日

経営感度を磨く社会の読み方<第10回>
産業集積で日本再生
—クラスターとは何か—

2017-11-27 18:45

前回までは、共有価値の創造(CSV)のうち、製品、バリューチェーン、街づくりの産業集積のCSVを見てきました。今回は、日本再生のために産官学が一丸となって国際競争力向上を目指す、本来的な産業集積CSVを考えましょう。

クラスターの形成と国の政策

 産業集積の「集積」を、英語では「クラスター」(ブドウの房の意味)といいます。「コミュニティーにおける関連産業の集積」という概念で、シリコンバレーのような「ITクラスター」や、中部地方の自動車産業の主力企業の周りに自動車部品関連産業が配置されている「自動車産業クラスター」が代表例です。
 経済産業省によれば、産業クラスターとは、「新事業が次々と生み出されるような事業環境を整備することにより、競争優位性を持つ産業が核となって広域的な産業集積が進む状態」のことです。同省が推進してきた産業クラスター政策は、「地域の中堅中小企業・ベンチャー企業が大学、研究機関等のシーズを活用して産業クラスターを形成することで、国の競争力向上をはかる」ものです。
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アグリクラスター(農業関連)

 競争戦略論の第一人者であるハーバード大学教授のマイケル・E・ポーターのCSV論文(2011年)では、ネスレのコーヒー栽培地での農業・技術・金融・物流などのクラスター形成や、世界最大の肥料メーカー、ヤラ・インターナショナルによるアフリカでの農業クラスター形成が、事例として挙がっています。

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 伊藤園の茶産地育成事業も典型事例です。伊藤園は2013年にポーター賞を受賞しています。同年の受賞記念の「競争力カンファレンス2013」で、ポーターは茶産地育成事業がCSVの該当事例であると述べています。
 最近では茶畑の周辺に荒茶加工工場が新設され、県の茶業研究機関や普及機関、肥料など農業資材関連企業、大学や農協組織との連携強化もはかられつつあり、茶産地において産業クラスター化が進んでいます。本事業については、伊藤園の『CSR報告書2014』で分析されています。
 日本では福井県が、豊かな自然を生かし産官学で「ふるさとづくり」を進めています。「自然再生ふくい行動プロジェクト」「里山里海湖研究所」という産官学のプラットフォーム作り。「ふるさとの日」(2月7日。1881年のこの日に県が発足)、「福井ふるさと百景」に加え、「福井ふるさとの音風景」では「あ、あの時の音がする」というテーマで、自然や祭りの音をホームページで紹介しています。

産業クラスタープロジェクト(医療・航空等)

 ポーターが論文で提示したもう一つの例は、米国の最先端研究機関「リサーチ・トライアングル・パーク(RTP)」による生命科学などの官民共同のクラスター形成です。
 日本での代表的事例は、経済産業省による産業クラスター計画(2001〜2009年)における「関西バイオクラスタープロジェクト」です。企業約460社、京都大学・大阪大学・神戸大学等および大阪市・京都市・神戸市等の自治体がネットワークを形成しました。技術の芽と需要のマッチングと、弁護士・公認会計士・弁理士等からの適切なアドバイスや販路開拓支援などが実施されました。
 最近では、「神戸医療産業都市構想」が、277社の医療関連企業が集まる国内最大の医療クラスターになったと報告されています。メディカル、バイオ、そしてスーパーコンピューター「京」を活用したシミュレーションの3つのクラスターを融合させ、成長が期待されています(2014年8月24日付神戸新聞朝刊)。
 兵庫県、大阪府、京都府の “関西圏” は、医療・まちづくりなどの分野で政府が地域限定で規制を緩和する「国家戦略特区」に指定され、国際競争力の高い産業と経済拠点の育成を目指しています。
 さらに「クラスター」と銘打つ特区としては、アジア最大・最強の航空宇宙産業クラスターの形成を目指す国際戦略総合特区「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」が注目されます。緑地規制の緩和や設備投資時の優遇税制などの優遇措置が受けられる仕組みで、対象地域は愛知、岐阜、三重の3県から長野県および静岡県にも拡大されました。

伝統的工芸品クラスター(クールジャパン)

 日本には長い歴史と風土の中で培われた匠(たくみ)の技術があり、クールジャパンとして期待されています。経済産業省は「伝統的工芸品」を指定しており、現在219品目あります(2015年3月現在)。

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 その一つ、越前漆器を福井県鯖江市のうるしの里会館(越前漆器伝統産業会館)で見てきました。千五百余年の歴史のある、深く美しい色合いは魅力です。技の工程や祭り用の山車(だし)が展示され、伝統工芸士の実演もあります。
 市場のニーズの変化に対応し、現在では全国の業務用漆器(外食産業用)八割以上を生産する産地です。農村的な風情のある河和田地区には、「軒下工房」でものづくり現場を見ることができる「うるしの里」があります。職人、関連企業が集まり、東京丸の内のKITTEにも出店した木製デザイン雑貨「Hacoa」の本社もあります。代表的なものづくりのクラスターです。
 漆器といえばお椀であり、和食の無形文化遺産の継承には食器も重要な役割を果たします。鯖江市ではすべての小学校で「和膳」の給食椀(木製漆塗椀)を導入しています。
 地域の資源・技術等を基盤に、日本の優れたものをクールジャパンとして国内外に発信する貴重な産業を育成・承継しており、大変参考になる取り組みです。
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まち・ひと・しごと創生とクラスター

 2014年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、「新事業・新産業と雇用を生み出す地域イノベーションの推進」のための「地域クラスター」が取り上げられています。
 地方における若年世代の流出・人口減少を食い止め、地域イノベーションや地域経済を担う中核企業を創出するため、これからの地域クラスターには革新的な技術の芽を事業化につなげる研究機関の「橋渡し」の役割が重要です。地域内に閉じこもりがちで域外との連携が不十分だった反省を踏まえ、全国の資源を積極的に活用し、人材や技術も交流を強化して、「目利き人材」による民間企業のニーズと大学等の研究成果等のマッチングを促進するとのことです。
 今は、人と人とのつながりの仲立ちをする人材が必要なのです。そのためには、実践性の高いグローバル人材育成のための教育手法である「持続可能な開発のための教育」(ESD)が不可欠です。
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(『月刊総務』2015年5月号より転載)
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