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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。経営感度を磨く社会の読み方<第8回> バリューチェーンCSV早わかり

2017年8月29日

経営感度を磨く社会の読み方<第8回>
バリューチェーンCSV早わかり

2017-11-27 18:35

本連載第6回では「製品CSV」を取り上げましたが、今回は「バリューチェーンCSV」を考えます。

「茶畑から茶殻まで」のCSV

 CSVでは、「製品・市場の見直し」「バリューチェーンの見直し」「産業集積の形成」の三側面が重要です。「バリューチェーン」とは、原料調達、製造、販売、消費の「価値連鎖」のことです。この見直しで無駄をなくしたり、新たな価値を生んだりしていくのが「バリューチェーンCSV」です。
 伊藤園の「茶畑から茶殻まで」の取り組みはその代表例です。当社は日本で生産される茶葉の約4分の1を使用しています。しかし、後継者問題、耕作放棄地、自給率低下などの農業課題が深刻で、茶園も例外ではありません。これに対処するため、伊藤園では従来の市場仕入れに加え、茶葉調達の一部を茶産地から育成する茶産地育成事業を行っています。本事業は「契約栽培」と、耕作放棄地などを活用し茶畑から茶産地の方々と茶葉を育成する「新産地事業」の二つからなります。新産地事業では、生産者、行政、伊藤園の三者が連携をはかり、生産者には全量買い取り契約による経営安定化と技術指導の享受、地域には雇用創出・耕作放棄地解消・自給率向上、当社には原料の安定調達という「三方よし」を目指しています。
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茶産地育成事業(伊藤園ホームページより)
 この事例は、原料調達を見直した結果新たな価値が生まれている「バリューチェーンCSV」です。
 伊藤園は世界初の缶入り緑茶を発売してから30周年を迎えます(2015年当時)。これを記念して、「おーいお茶 緑茶」と「おーいお茶 濃い茶」が日本の象徴、「桜」をデザインした春期特別限定パッケージで(2015年)1月下旬から新登場しています。「おーいお茶専用茶葉」の使用量を増やし、さらに香りの高い味わいの商品です。
 パッケージで日本の良いものや季節感を表現し、豊かな消費生活にも寄与するものです。
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30周年記念、春期特別パッケージの「おーいお茶緑茶」
および「おーいお茶濃い茶」(伊藤園ホームページより)
 年間約4万9000トン。これは、伊藤園の茶系飲料製造工程で排出される茶殻の量です(2012年度)。大部分は堆肥・飼料に再利用されますが、工場の近隣に農家がない場合もあり、何とか付加価値を生み出せないかと協力企業とともに研究開発に取り組みました。その結果、茶殻の一部を紙製品などに配合する「茶殻リサイクルシステム」が完成しました。茶殻を廃棄物ではなく、資源と捉えるのです。
 これにより、製造委託企業には省資源化と付加価値製品の製造、伊藤園には茶殻を乾燥しないことでCO2削減、消費者には製品の提供、そして環境配慮対応という、一石三鳥の「三方よし」が生まれています。現在、紙製品・ボード・樹脂・建材の4種類、30品目以上に拡大しています。また、香り・消臭性・抗菌性を持つ茶殻製品は、たとえば「お茶入り折り紙」を使った折り紙教室などで、消費者教育にも貢献しています。明日につながる消費を促す意味で、今後のキーワードの一つである「持続可能な消費」の考え方に該当します。
 このように「茶畑から茶殻まで」、伊藤園の事業にかかわるパートナーとの間でお茶にまつわる多くの「三方よし」のストーリーが生まれています。先日刊行された「2014年CSR報告書」(※)ではCSVを特集していますので、ご参照ください。
(※) http://www.itoen.co.jp/files/user/pdf/csr/report/sustainability_report_all_2014.pdf

BtoB企業のCSV事例

 よく「BtoB企業のCSVは何か」と聞かれます。バリューチェーンではBtoB企業の活動が、パートナー企業との協働・連携を通じて最終的に消費者にとっての付加価値を生みます。住宅産業はその代表例で、環境面でも優れた住宅用建材がなくては、社会・環境の貢献につながりません。
 インシュレーションボードなどの住宅用建材大手の大建工業株式会社は、「人と空間・環境との調和をテーマに顧客本位の経営を行う」という経営理念の下、循環型社会、高齢者、公共建築物等の耐震化促進、国産材の活用促進の4つを活動テーマとしています。本業の技術や経験を生かして、「エコ」と「住環境の質的向上」にこだわり、「DAIKENらしさ」を追求し、「特長や強みを発揮して解決策を見いだしていく『攻めのCSR』」を進めています。

サービス分野のCSV事例

 レストランカラオケなどを幅広く展開するシダックスグループでは、BtoC事業やBtoBに加え、自治体などの業務を一括受託して運営を行う「BtoP」(Pはpublic)の事業があります。たとえば地域の地産地消等の拠点である「道の駅」サービスの受託では、バリューチェーンを見直して効率化や利便性を向上させる取り組みを行うなど、「心の通う接客」ノウハウを生かした地域貢献が、企業にとっても新たなビジネス分野の開拓につながっています。
 また、「自由旅行パック」は、消費者がネットを通じて航空機・ホテル・食事・オプションツアーなどを自由に組み合わせます。消費者は代理店に足を運ぶ手間が省け、選択肢が大幅に拡大し、企業はパンフレットなどのペーパーレス化等により低コストで収益性が高まります。既定パックの余計な行程をそぎ落とし、環境にも優しいという「三方よし」が生まれています。
 東京海上日動火災保険株式会社は「Green Gift」プロジェクトという活動を、2009年から行っています。本業のコアである保険契約時に「ご契約のしおり(約款)」等を冊子ではなくホームページで閲覧する方法(Web約款)を選択すると、紙資源の使用量削減額の一部が環境保護活動のNPO等に寄付されます。これにより、消費者参加型で、同社の代表的活動であるマングローブ植林をはじめ国内外の環境保護活動をサポートしています。

バリューチェーンCSVのまとめ

 これらの事例はメディアなどでも話題になり、「いいね!」という共感を呼んでいます。一方、これらの活動の理由や本業との関連性を理解すると、論理的に「なるほど!」となります。さらに、行政やメディアから客観的に評価されて継続性が期待され、「またね!」となります。共感「いいね!」、論理「なるほど!」、継続「またね!」がうまく結実している事例といえます。
 バリューチェーンCSVのポイントは、各工程(原料調達、製造、販売、消費など)を見直し、企業の本業を生かして社会・環境課題の解決をはかるという視点です。たとえば茶産地育成事業では、耕作放棄地、自給率低下などの農業課題に対処し、茶殻リサイクルでは、茶殻を廃棄物ではなく資源と捉えるところから始まります。CSVでは、このように社会・環境課題への感度が大事です。
 次に、課題解決に当たって関係者との連携から付加価値が生まれる仕組みを作ることです。技術面でのイノベーションや工夫、そして消費者に参加してもらうことも重要です。消費者や協力企業も含めて、関係者とのウィン・ウィン関係が構築されて「三方よし」の構造ができると、継続性ある活動につながります。
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(『月刊総務』2015年3月号より転載)

 

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