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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。経営感度を磨く社会の読み方<第4回> 三方よしと「教育CSR」

2017年8月29日

経営感度を磨く社会の読み方<第4回>
三方よしと「教育CSR」

2017-11-27 18:15

古くからの近江商人の経営哲学「三方よし」は、CSVを提唱するマイケル・E・ポーターと考えが似ていますが、大きな違いもあります。これらの点について、”トリプルS”との関係で整理してみましょう。

「三方よし」を現代に生かす

 近江商人の「三方よし」—–「売り手よし、買い手よし、世間よし」はわかりやすく、特に「世間」という言葉は含蓄がありますね。
 企業を「売り手」、関係者を「買い手」、社会・環境を「世間」とすると、「三方よし」は、CSV(共有価値の創造)やISO26000(関係者との連携で持続可能な社会・環境を目指す)の整理とほぼ同じです。
 日本では、2011年の東日本大震災を機に技術や制度に対する信頼が失墜し、人への思いやりと絆を大事にする価値観へと根本的な変化が生じました。震災の前後では、社会・環境に対する認識、企業の見方、商品選択などに大きな違いが見られます。そのキーワードは「安全安心」「絆」「エコ」の三つに集約されるでしょう。企業も、この意識の変化を商品やサービスの開発に反映させる必要に迫られています。商品のブランド化のみならず、「顔の見える企業」になり、他企業との差別化をはかる必要があるのです。
 このような変化の中で、「三方よし」の考えがあらためて見直されています。日本にはこの考え方に根ざした「社是」を掲げる企業も多いのです。
 伊藤園は、「お客様第一主義」を経営理念とし、「お客様を第一とし 誠実を売り 努力を怠らず 信頼を得るを旨とする」を社是に掲げています。「お客様」とは、消費者、株主、販売先、仕入れ先、金融機関、そして地域社会など伊藤園グループとかかわりを持つすべての方々です。社会との関係や「社会からの信頼」が基本に据えられています。

CSVと三方よしの違い

 「三方よし」とCSVには大きな違いもあります。
 「三方よし」は日本の伝統であり、日本人や日本企業のメンタリティの中に根付いています。しかし、理論化、体系化はできていません。一方、米国発のCSVはポーターによる理論化、体系化が進み、「見える化」されています。
 また、「三方よし」には陰徳善事「善いことは黙って行うべし」「わかる人にはわかる」という考えがありますが、これでは多様な競合企業が存在するグローバル時代に対応できません。的確な発信を伴う「発信型三方よし」を目指す必要があります。それにより「ハイブリッドの日本型CSV」が生まれます。
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「三方よし研究所」

 滋賀県彦根市にある「三方よし研究所」に行ってきました。江戸時代の近江商人の書物などの展示物もあり、大変勉強になりました。行ってみて、わかったことが二点あります。
 一つは、おかみ(女性)の役割です。近江商人は、亭主や男性従業員が「三方よし」の気持ちで行商に出ます。留守を預かるのはおかみさんです。おかみさんは女性の社会進出の草分けでしょう。ダイバーシティの視点で見れば、当時は非常に進んでおり、おかみさんが大活躍でした。
 二つ目は、当時の教育の仕方です。おかみさんは丁稚や子弟を寺子屋で学ばせます。当時の「寺子屋」は、「読み書きそろばん」からおもてなしの心、人徳、処世術などの「世間」のことまで幅広く学ぶ総合教育機関で、掃除も自分たちでやり、「もったいない」を実践していました。
 江戸時代に各藩に設置されていた「藩校」や「塾」も、同様の意味でESDの実践機関だったといえます。

TERAKOYAで総合的視野の育成(ESD)

 現代はこれらの良き伝統が崩れ、各科目の縦割り構造の教育になってしまっています。そう考えると、現代に寺子屋の総合・実践的な教育手法を導入し内容を国際対応にしていくことが、ESDではないでしょうか。ポーターも論文で、CSVの提唱と併せて総合教育の重要性を強調しビジネススクールで学際的分野を強化するカリキュラム変更を提案しています。
 組織には組織統治を軸に人権・環境・消費者課題など取り組み課題があり(社会的責任の手引きISO26000の7つの中核主題)、企業では各課題に該当する社内教育があります(図表1)。しかし担当部署が縦割りになっている場合が多いですね。これでは総合力を養う人材育成になりません。
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 ESDをかみ砕くと、「世のため、人のため、自分のため、子孫のためを、総合的に考え行動する」といった意味です。ESDが概念として非常に良いのにもかかわらず日本人の頭に入りにくいのは、わかりやすい概念整理がないことも一因です。
 「TERAKOYA」——- これが筆者のざっくりと考えたご提案です。
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「教育CSR」とESD

 CSRとESDの合体を考える「教育CSR」のシンポジウムで発表しました(2014年8月8日、日本経済新聞社、日経BP社主催)。
 シンポジウムでは、まず、日本では浸透しにくいアルファベット三文字のCSR、CSV、ESDをわかりやすく「翻訳」し直しました。
 CSRは、「企業の社会的責任」では狭いので「社会対応力」、CSVは、「共有価値の創造」では硬いので「ウィンウィン関係構築力」、ESDは「持続可能な開発のための教育」ではわかりにくいので「みんなで学ぶ」。いかがでしょうか。
 その上で、「教育CSR」を次の二つのアプローチで整理しました。
 第一に、CSRを慈善活動的CSRから「本業CSR」に転換し、「教育CSR」も教育・訓練・能力開発と幅広く本業重視で進めます。ISO26000では世代を超えて社会・環境を考えるため教育を重視するので、7つの中核主題のすべてに教育が関連します。ただし、課題間の「相互依存性」を考慮し「全体的なアプローチ」になるよう工夫が必要です。
 第二に、「教育」をESDの定義も用いて、幅広い教育の場と捉え直し、学校等の公的教育のみならず社会教育、文化活動、企業内研修、地域活動などあらゆる学習や学びの場を考えます。グローバル時代の人材育成にあたり、TERAKOYA(ESD)が総合的学習手法として役に立つのです。
 そして以上の二つの視点がパートナーシップ形成を促進し、CSVの実現に貢献するのです(図表2)。
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 政府・自治体などもいろいろな協働の仕組みを用意しています。たとえば、前にご紹介した「高知家」などです。各関係者は、パートナーシップ構築に向けてこれを積極活用することが望まれます。
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(『月刊総務』2014年11月号より転載)
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