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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。経営感度を磨く社会の読み方<第1回> 「ご当地キャラ」から学ぶ

2017年8月29日

経営感度を磨く社会の読み方<第1回>
「ご当地キャラ」から学ぶ

2017-11-27 18:00

激しい社会の変化に企業・組織はどう対応すべきでしょうか。身近な事例を通じて読者のみなさんと一緒に考えていきます。

 

あわ神とあわ姫の物語

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「あわ神とあわ姫」というご当地キャラクターの話から始めましょう。

古い神話にあやかった、瀬戸内海の淡路市のキャラクターが大活躍しています。あわ神とあわ姫の間に男の子と女の子の双子のお子さまを誕生させたり、お子さまの名前を公募したりと、メディアを含めてみんなで盛り上がっています。淡路の観光支援のみならず、婚活・子育て支援での活躍も期待されており、婚活のカミサマとして応援して淡路食材を食べる「婚活バーベキュー」も実施されています。
「あわ神とあわ姫」はキャラに物語性を持たせることでみんなの関心と共感を呼んでいますが、このようなほほえましい事例にも社会を読み解くヒントがあります。どのようなヒントがあるか探ってみましょう。

具1グランプリの共感力

 「B‐1グランプリ」が有名になりましたが、淡路市では「具‐1(ぐーわん)グランプリ」というイベントにも力を入れていて、そのアイデアは並大抵ではありません。
 具‐1グランプリは、2013年で3回目を迎えました。入賞対象の表を見てください。「梅シソ鳥」「梅あなご」「しらすえだ豆チーズ」のほか、コンビニ社賞として「しらすとつけもの」「しょうが焼き」「じゃこたっぷり」が入賞しています。これは何のコンテストかおわかりでしょうか。コンビニが協賛しているところが一つ目のポイントです。二つ目は、入賞内容に注目してください。
 この二点から、「あーそうか、おむすびコンテストなんだ」とおわかりになった方は、社会的感度が高い方でしょう。コンビニといえばおむすびで、淡路市の名産品「しらす」「じゃこ」などが入賞しています。つまり、地産地消のための「おむすびコンテスト」なのです。「同じ釜の飯を食う」というのはB‐1グランプリなどでもありますが、ここでは「同じ釜の飯で作ったおむすびを食べる」という経験から共感と感動が生まれ、その内容が記憶に残ります。
 この企画のすばらしさは、単なるイベントに終わらせず、入賞したおむすびをコンビニが「あわ神・あわ姫」のイラスト付きで限定商品として販売していることです。ご当地キャラもうまく活用して企業の本業ビジネスにつなげており、有力な地域活性化方策として今後も育っていくことが期待されます。
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キャラ活用の「三方よし」

企業として望ましいのは、本業ビジネスにメリットがあり社会的課題解決の貢献にもなる、ウィン・ウィン関係です。参考になるのが、日本の伝統的な商文化である近江商人の「三方よし「売り手よし、買い手よし、世間よし」です。「あわ神・あわ姫」のキャラと「具‐1グランプリ」の組み合わせは、「三方よし」につながる仕組みです。
「売り手」のコンビニにとっては、イベント協賛による地域応援で企業イメージ向上がはかれる上、「あわ神・あわ姫」キャラを打ち出した限定おむすびで商品の差別化ができ、売り上げ向上につながります。本業を通じて地域活性化に参加しつつ、本業への好影響が期待できるわけです。
「買い手」の消費者は、イベント参加で楽しく地域産品を学べる食育になり、限定おむすびを購入すれば地域活性化への応援消費になります。「世間」にとっては、淡路市の地産地消や地域活性化効果につながります。このように「三方よし」が成り立っています。
 さらに、具‐1グランプリの入賞者は地元の学生であり、地域振興の次の担い手に育っていくでしょう。
 最新の伊藤園の取り組みもご紹介しましょう。今年四月、大分カボスのキャラクター「カボたん」をデザインした果実水飲料「和の伝統果実はちみつかぼす」を発売しました。名産品のカボスにはちみつを加えて香り・酸味・甘みをバランスよく引き出した果実水です(果汁一%)。これは、地方の名産品を全国デビューさせる「地産地消」ならぬ「地産全消」という「三方よし」の事例です。

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ご当地キャラの経済学

昨年一二月の「ユーキャン二〇一三年新語・流行語大賞」で、「ご当地キャラ」がトップテン入りを果たしました。「ご当地キャラ」は、「ゆるキャラグランプリ」(第二回からゆるキャラサミット協会主催)により運動が盛り上がってきました。「ゆるキャラ」は「ゆるいマスコットキャラクター」の略で、みうらじゅん氏と扶桑社が商標登録しています。
 四年前の第一回グランプリでは、滋賀県の「タボくん」(携帯投票部門)と彦根市の「ひこにゃん」(記名投票部門)が優勝しました。商業的にも成功し始めたのは、「ひこにゃん」あ
たりからかもしれません。第二回「くまモン」(熊本県)、第三回「バリィさん」(今治市)、そして昨年が「さのまる」(佐野市)でした。
 ご当地キャラの管理主体は、県、市町村、観光協会などの団体、私企業や個人に分かれます。使用許諾には有料、無料があり、商標登録も登録済み、未登録などバラバラです。
 「くまモン」は、県が管理し、県産品の推進や県のPRへの寄与が要件で、使用料は無料ですが登録が必要です。利用許諾数は一万五〇〇〇件を突破、二〇一三年の関連商品の年間売上高は約四四九億円と発表され、海外進出も果たし、もっとも経済的に成功しています。「バリィさん」は全国デビューで今治市の活動が広く知られるきっかけとなりました。
 「さのまる」は、佐野市関係者が一丸となった選挙活動が話題になりました。地域活性化を目指す市の工夫が随所に見られます。さのまるは佐野ラーメンのどんぶりをかぶり「いもフライ」の串を脇に差した「ご当地グルメ・キャラ」。なんとどんぶりのデザインは雷文模様ではなく、「SANO」とローマ字表記で外国も意識しています。「さのまる応援隊」も組織され、地域密着型営業の伊藤園は佐野支店が応援隊の一員です。アンテナショップ「さのまるの家」、原付バイクなどへの「さのまるナンバープレート」など、優勝を契機に本格活用に動き出しています。
 ご当地キャラを分析すると、幅広く「いいね!」という共感を呼んでいます。一方、仕組みがわかると「なるほど!」となります。継続性が大事なので「またね!」です。共感「いいね!」、論理「なるほど!」、継続「またね!」が社会的活動の効果を高めるコツです。

トリプルSの経営戦略

 今や、企業・組織は、子孫につなぐ未来に向けて、つまり、社会・環境の「持続可能性」に本業を通じて貢献する時代です。このためには、?S?を含む三つのキーワードが重要です。まず、社会からの信頼を得ることです(国際標準ISO26000に即した?CSR?で本業を通じた社会への貢献)。第二に、社会との共有価値の創造です(?CSV?で競争力強化)。さらに、明日を担う人材育成です(持続可能な開発のための教育?ESD?の方法)。
 これを「?トリプルS?の経営戦略」として拙著『CSR新時代の競争戦略』(日本評論社)で提唱しています。社会を読み解くことは、すべての組織人にとって必要です。この連載では、個人的な立場から身近な事例で説明しますので、?トリプルS?で経営感度を磨き、ものごとの見方や経営戦略に役立ててください。

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(『月刊総務』2014年8月号より転載)
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