2022年11月26日
SDGsを企業経営に取り込む「SDGs経営」。これを実践するうえで重要になるのは、あらゆるレベルでの社会的責任に関する組織全体の「意識の向上」と、社会的責任を実施するための「力量(コンピテンシー=Competency)」だ。
この「力量」とは、ステークホルダーが当該企業の社会的責任に関する知識や理解を深め、必要に応じて技能の強化や開発をし、高めていくもの。2010年にCSR(企業の社会的責任)の世界標準である『組織の社会的責任の手引き』(ISO26000)で発表されて以来、重視されてきた考え方だ。
そんな力量のある企業が、本気でSDGs経営に取り組むとどうなるのか。今回はSOMPOホールディングス(以下SOMPO)の事例をもとに、ヒントを探る。
2021年5月に発表した新しい中期経営計画(2021~2023年度)で、「SDGs経営」へと舵を切ったSOMPO。近年は中核事業である「保険」の枠組みを超えて、介護やデジタル事業などで、社会課題の解決を目指している。
2021年8月には、「グループ・チーフ・サステナビリティ・オフィサー(グループCSuO)」を設置し、SDGs経営の推進体制を強化した。
このグループCSuO執行役に就任したのが下川亮子氏だ。下川氏はゴールドマン・サックス証券、日本マクドナルドなどを経て、2016年にSOMPOひまわり生命に入社。人事・総務の責任者として、健康経営やダイバーシティの推進も担当してきた幅広い経験と実績を有するキーパーソンだ。
グループCSuOとしてまず行ったのがパーパス(企業の存在意義)の浸透だ。コロナ禍で社会的な価値観に大きな変化が訪れるなか、企業の存在意義を見つめ直すことが重要と考え策定された、SOMPOのパーパス「”安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」の浸透に取り組んだ。
「安心・安全・健康のテーマパーク」とは、SOMPOグループが2016年に発表した中期経営計画(2016~2020年度)で掲げた「グループの目指す姿」でもある。まさかのときに備えるだけでなく、できるだけ現在の幸せを長続きさせ、できればさらに幸せになるようにお手伝いをする、という考えだ。同グループではこれを「テーマパーク構想」と呼んでいる。
「SDGs経営は、パーパス実現に向けた取り組みを推進するための仕組みであり、“テーマパーク構想”を具体化するためのマネジメントそのものです」(下川氏)
パーパスを策定する際に重視したのは、あらゆるグループ会社の従業員一人ひとりが自分ごととして誇りに感じ、取り組んでいける文言にすることだっという。そして、「自分ごと化」のために、まず自分自身のパーパスを持ち、その上で会社のパーパスと重ねていくため、社員に対して自分の人生のミッションを言語化して作成する「MYパーパス」という取り組みなども行っている。
この「力量」とは、ステークホルダーが当該企業の社会的責任に関する知識や理解を深め、必要に応じて技能の強化や開発をし、高めていくもの。2010年にCSR(企業の社会的責任)の世界標準である『組織の社会的責任の手引き』(ISO26000)で発表されて以来、重視されてきた考え方だ。
そんな力量のある企業が、本気でSDGs経営に取り組むとどうなるのか。今回はSOMPOホールディングス(以下SOMPO)の事例をもとに、ヒントを探る。
SDGs経営はパーパスの策定から
2021年5月に発表した新しい中期経営計画(2021~2023年度)で、「SDGs経営」へと舵を切ったSOMPO。近年は中核事業である「保険」の枠組みを超えて、介護やデジタル事業などで、社会課題の解決を目指している。
2021年8月には、「グループ・チーフ・サステナビリティ・オフィサー(グループCSuO)」を設置し、SDGs経営の推進体制を強化した。
このグループCSuO執行役に就任したのが下川亮子氏だ。下川氏はゴールドマン・サックス証券、日本マクドナルドなどを経て、2016年にSOMPOひまわり生命に入社。人事・総務の責任者として、健康経営やダイバーシティの推進も担当してきた幅広い経験と実績を有するキーパーソンだ。
グループCSuOとしてまず行ったのがパーパス(企業の存在意義)の浸透だ。コロナ禍で社会的な価値観に大きな変化が訪れるなか、企業の存在意義を見つめ直すことが重要と考え策定された、SOMPOのパーパス「”安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」の浸透に取り組んだ。
「安心・安全・健康のテーマパーク」とは、SOMPOグループが2016年に発表した中期経営計画(2016~2020年度)で掲げた「グループの目指す姿」でもある。まさかのときに備えるだけでなく、できるだけ現在の幸せを長続きさせ、できればさらに幸せになるようにお手伝いをする、という考えだ。同グループではこれを「テーマパーク構想」と呼んでいる。
「SDGs経営は、パーパス実現に向けた取り組みを推進するための仕組みであり、“テーマパーク構想”を具体化するためのマネジメントそのものです」(下川氏)
パーパスを策定する際に重視したのは、あらゆるグループ会社の従業員一人ひとりが自分ごととして誇りに感じ、取り組んでいける文言にすることだっという。そして、「自分ごと化」のために、まず自分自身のパーパスを持ち、その上で会社のパーパスと重ねていくため、社員に対して自分の人生のミッションを言語化して作成する「MYパーパス」という取り組みなども行っている。
SDGs達成に向け数値目標も設定
次にSOMPOホールディングスは、SDGsを経営システムに取り込むために、パーパスの実現に向けた7つの重点課題を「SOMPOのマテリアリティ(経営上の重点課題)」として定めた。
この過程で作成したのが、「ESG/SDGsマトリクス」で、筆者が監修させていただいた。
SDGsの169のターゲット・レベルで整理し7つのマテリアリティを特定した(出典/「SOMPOホールディングス統合レポート2021」)
「SDGsの169のターゲットそれぞれに対して、当社が提供する商品・サービスと、今後の戦略との関係性を洗い出しました。それが『SOMPO を取り巻く社会課題』です。そしてそのうえで、優先的に取り組む社会課題を特定し、7つのマテリアリティ(重要課題)として体系化しました」(下川氏)
7つのマテリアリティとは以下の通りだ。
1.あらゆるリスクに対する備えの提供
2.事故や災害を未然に防ぎ、レジリエントな社会に貢献
3.経済・社会・環境が調和したグリーンな社会づくりへの貢献
4.健康と笑顔を支えるソリューションの提供
5.持続可能な高齢社会への貢献
6.未来社会を変える人材集団の実現
7.価値創造に向けたパートナーシップのプラットフォーム構築
さらに、この7つのマテリアリティそれぞれに対して、数値目標を含むKPIを設定。例えば「1.あらゆるリスクに対する備えの提供」のKPIのひとつは、国内の正味収入保険料(保険の普及への貢献)で、数値目標は2021年度1兆9886億円、2023年度2兆799億円となっている。
「結果的にKPIの約8割が事業との関係性が強く、その事業の進捗を見るのに値する指標となりました」
SDGsの18番目の目標とは?
このマトリクスでもうひとつ重要なのが、ESGとの関連。縦軸左に「ESG区分」があり、ESG要素との的確な関連付けもできている。
「SDGsのどの目標に、どのように取り組んでいるかが明確化されているので、投資家だけでなく、マルチステークホルダーに対しても、重点ポイントの“見える化”をしています」
この整理方法であれば「企業にとって都合の良いSDGsを選んでいる」との批判を防ぐこともでき、投資家に対する訴求力を高める効果もある。
下川氏によると、このマトリクスをグループ内で共有し、グループ全体としてマテリアティへの理解を促進できたことで、SDGs経営の良いスタートが切れたという。
ただ、このマトリクスをもってしてもカバーできない項目もある。
特にSDGsを盛り込んだ国連文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」にも明記されている「身体的・精神的・社会的なwell-being(より良き生き方や幸せ)の保障」といった部分は、それに該当すると思う。
こうしたSDGsの17項目の枠を超えた目標を、筆者は「SDGsの18番目の目標」と表現している。SOMPOグループでも、すでにこの「18番目の目標」は意識しているようだ。
今後これをわかりやすい形で発信していくことで、コロナ後の「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」に貢献するソリューションプロバイダーとして、世界から期待される企業になるにちがいない。
SOMPOは新しい中期経営計画(2021~2023年度)のなかで、これまでの課題解決の過程に加え、事業を通じて獲得したあらゆるデータを活用するRDP(Real Data Platform)の推進を発表した。
下川氏によれば、「RDP構想」は、自社の強みである人的資本や情報資本といった無形資産の力も使って、新たなビジネス価値を生んでいく戦略だという。
「“テーマパークとは何なのか”を追求し続け、介護、防災・減災、モビリティ、ヘルシーエイジング、農業などの領域で、RDPを考え始めています。データ取得、ソリューション開発のパートナーを求め、社会課題解決に対して強い想いを持つプレーヤーを呼び込み、パートナーシップをどんどん広げていきたい。私たちは、プラットフォーマーになることを目指します」
SDGsでは「level of ambition」や「moonshot」といった難しい課題へのチャレンジ力を期待しているが、まさにそれを感じさせる事業であり、そのポテンシャルが高い。
筆者は、SDGsは「磁場」みたいなもので、SDGsのマインドを持っている方やSDGsに熱心な企業を強く惹き付け、パートナーシップを強固にし、イノベーションを呼び込む効果を持つと考える。
グループCSuOとしての今後の抱負を聞いたところ、下川氏は次の3点を挙げた。
1.社内へのパーパス浸透の徹底
2.グループ全体でのSDGs経営の推進によるシナジーの発揮
3.社外に対するコミュケーション強化によるブランド価値と企業価値の向上
下川氏の発信力の強さと、実践に裏付けられたイニシアティブにより、今後この3点がSOMPOの社内外でスピード感をもって推進されることが期待される。
こうしたSDGsの17項目の枠を超えた目標を、筆者は「SDGsの18番目の目標」と表現している。SOMPOグループでも、すでにこの「18番目の目標」は意識しているようだ。
今後これをわかりやすい形で発信していくことで、コロナ後の「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」に貢献するソリューションプロバイダーとして、世界から期待される企業になるにちがいない。
新たに推進する「RDP構想」とは?
SOMPOは新しい中期経営計画(2021~2023年度)のなかで、これまでの課題解決の過程に加え、事業を通じて獲得したあらゆるデータを活用するRDP(Real Data Platform)の推進を発表した。
下川氏によれば、「RDP構想」は、自社の強みである人的資本や情報資本といった無形資産の力も使って、新たなビジネス価値を生んでいく戦略だという。
「“テーマパークとは何なのか”を追求し続け、介護、防災・減災、モビリティ、ヘルシーエイジング、農業などの領域で、RDPを考え始めています。データ取得、ソリューション開発のパートナーを求め、社会課題解決に対して強い想いを持つプレーヤーを呼び込み、パートナーシップをどんどん広げていきたい。私たちは、プラットフォーマーになることを目指します」
SDGsでは「level of ambition」や「moonshot」といった難しい課題へのチャレンジ力を期待しているが、まさにそれを感じさせる事業であり、そのポテンシャルが高い。
筆者は、SDGsは「磁場」みたいなもので、SDGsのマインドを持っている方やSDGsに熱心な企業を強く惹き付け、パートナーシップを強固にし、イノベーションを呼び込む効果を持つと考える。
グループCSuOとしての今後の抱負を聞いたところ、下川氏は次の3点を挙げた。
1.社内へのパーパス浸透の徹底
2.グループ全体でのSDGs経営の推進によるシナジーの発揮
3.社外に対するコミュケーション強化によるブランド価値と企業価値の向上
下川氏の発信力の強さと、実践に裏付けられたイニシアティブにより、今後この3点がSOMPOの社内外でスピード感をもって推進されることが期待される。