2022年11月26日
政府(内閣府)の「SDGs未来都市」制度は、政策の「累積性」を感じさせる制度である。発足から5年目を迎えた今年は、5月に新たに30都市を選定し、特に先導的な取り組みの10事業を「自治体SDGsモデル事業」として選定した。
この結果、この5年で累計は「SDGs未来都市」が154都市、「自治体SDGsモデル事業」が50事業となった。さらに、2024 年度までに210 都市の選定を目指している。
その「SDGs未来都市」に2021年度に選定された岐阜市を久しぶりに訪問した(岐阜県も2020年度に選定)。同市のこれまでの歩みから、SDGs未来都市制度の意義を探る。
岐阜市は、岐阜県南部に位置する面積約200km2、人口約40万人の県庁所在市である。市内北部に山林、南部に市街地が広がり、中央には岐阜城を頂く緑豊かな金華山と、1300年以上の歴史を誇る「長良川鵜飼」で有名な清流長良川を有している。
Getty Images
名古屋市からは直線で約30km、電車で約20分の通勤圏。高度な都市機能を備えた県内の中核市として、圏域の社会経済を牽引している。
そんな岐阜のまちづくりに新機軸を与えた制度が、「日本遺産」だった。2015年、金華山を含む長良川中流域一帯が、文化庁が創設した制度「日本遺産」の第1号に認定されたのだ。
この制度は、地域で世代を超えて受け継がれている、歴史的魅力にあふれた文化財群や地域資源をまとめた「ストーリー」を認定するもの。世界遺産にはなっていない日本の優れた遺産を未来に残そうとする仕組みである。当時急拡大していたインバウンドの観光も意識していた。
日本遺産に選定された際のタイトルは「『信長のおもてなし』が息づく戦国城下町・岐阜」。サイトでは遺産について、次のように解説されている。
「戦国時代、岐阜城を拠点に天下統一を目指した織田信長。彼は戦いを進める一方、城内に「地上の楽園」と称される宮殿を建設、軍事施設である城に『魅せる』という独創性を加え、城下一帯を最高のおもてなし空間としてまとめあげる」
「自然景観を活かした城内外の眺望や長良川での鵜飼観覧による接待。冷徹なイメージを覆すような信長のおもてなしは、宣教師ルイス・フロイスら世界の賓客をも魅了した。岐阜城が城としての役割を終えた後も信長が形作った城・町・川文化は受け継がれ、現在の岐阜の町に息づいている」
この日本遺産への登録により、岐阜が改めて市内外に広くPRされるとともに、市民に価値ある地域資源として認識されることとなった。
この結果、この5年で累計は「SDGs未来都市」が154都市、「自治体SDGsモデル事業」が50事業となった。さらに、2024 年度までに210 都市の選定を目指している。
その「SDGs未来都市」に2021年度に選定された岐阜市を久しぶりに訪問した(岐阜県も2020年度に選定)。同市のこれまでの歩みから、SDGs未来都市制度の意義を探る。
「信長のおもてなし」で日本遺産第1号に
岐阜市は、岐阜県南部に位置する面積約200km2、人口約40万人の県庁所在市である。市内北部に山林、南部に市街地が広がり、中央には岐阜城を頂く緑豊かな金華山と、1300年以上の歴史を誇る「長良川鵜飼」で有名な清流長良川を有している。
Getty Images
名古屋市からは直線で約30km、電車で約20分の通勤圏。高度な都市機能を備えた県内の中核市として、圏域の社会経済を牽引している。
そんな岐阜のまちづくりに新機軸を与えた制度が、「日本遺産」だった。2015年、金華山を含む長良川中流域一帯が、文化庁が創設した制度「日本遺産」の第1号に認定されたのだ。
この制度は、地域で世代を超えて受け継がれている、歴史的魅力にあふれた文化財群や地域資源をまとめた「ストーリー」を認定するもの。世界遺産にはなっていない日本の優れた遺産を未来に残そうとする仕組みである。当時急拡大していたインバウンドの観光も意識していた。
日本遺産に選定された際のタイトルは「『信長のおもてなし』が息づく戦国城下町・岐阜」。サイトでは遺産について、次のように解説されている。
「戦国時代、岐阜城を拠点に天下統一を目指した織田信長。彼は戦いを進める一方、城内に「地上の楽園」と称される宮殿を建設、軍事施設である城に『魅せる』という独創性を加え、城下一帯を最高のおもてなし空間としてまとめあげる」
「自然景観を活かした城内外の眺望や長良川での鵜飼観覧による接待。冷徹なイメージを覆すような信長のおもてなしは、宣教師ルイス・フロイスら世界の賓客をも魅了した。岐阜城が城としての役割を終えた後も信長が形作った城・町・川文化は受け継がれ、現在の岐阜の町に息づいている」
この日本遺産への登録により、岐阜が改めて市内外に広くPRされるとともに、市民に価値ある地域資源として認識されることとなった。
世界農業遺産にも認定
さらに、長良川鵜飼に関しては、2015年12月に「清流長良川の鮎」が世界農業遺産に認定されている。
世界農業遺産とは、その土地の環境を生かした伝統的な農林水産業や、生物多様性が守られた土地利用、農村文化や農村景観などが一体となって、維持保全が図られている世界的に重要な地域を、後世に引き継ぐことが目的。2002年にFAO(国際連合食糧農業機関)によって創設された。FAO本部はローマにあり、筆者は農林水産省勤務時代に何度も訪問した。
長良川鵜飼では、国内外からの観光客呼び、今でも皇室に鮎を献上する御料鵜飼を行っているほか、用具に天然素材の原料を用いるなど、豊かな自然環境と共存する精神が根付いている点が評価された。
長良川鵜飼の様子 Getty Images
市民意識調査では、「鵜飼」を岐阜市の魅力と考える市民が多く、その割合は年々増加している。「サスティナビリティの象徴」でもある鵜飼は、市民の誇りの醸成に寄与しているのだ。
ほかにも、島根県の石州半紙・埼玉県の細川紙とともにユネスコの無形文化遺産に登録された「美濃和紙」など、岐阜には世界で評価されているコト、モノがある。
SDGs時代にも「信長のおもてなし」
その後2021年に「SDGs未来都市」にも選定。岐阜市のテーマは「ぎふシビックプライドとWell-beingに満ちたSDGs未来都市」だった。その提案書を読むと岐阜市の歴史・文化・自然面での強みがコンパクトにまとめられていて興味深い。
例えば以下のような一節がある。
「我が国の歴史上の転換期である戦国時代に活躍した斎藤道三や織田信長が築いた岐阜城や城下町をはじめ、江戸時代後期から戦前に建てられた町屋や神社仏閣が数多く残り、歴史まちづくりの重要な資源となっている」
つまり、「信長のおもてなし」が SDGsの時代にも重要資源として受け継がれているのだ。
具体例を見ていこう。長良橋南詰の鵜飼観覧船のりばから西へ続く「湊町・玉井町・元浜町」は、通称「川原町」といわれるエリアは、格子戸のある古い町並みが今も残り、いつ訪問しても風情がある場所だ。
河原町の街並み
川原町は、1897年(明治30年)に十六銀行(地方銀行)が最初の支店「富茂登出張所」を出店した場所でもある。旧「富茂登出張所」の建物は、江戸後期に建てられた木造2階建ての歴史ある建築物で、今も残っている。2017年に岐阜市の「景観重要建造物」に指定された。
ここでは、十六銀行が本業関連で岐阜市の政策と連携しており、まちづくりに必須の関係者連携でSDGs 目標17パートナーシップが発揮されていると理解できる。
SDGs未来都市制度の特色は、政策課題に「点」でアプローチするのではなく、線で結んだり、面で政策を打っていくきっかけになったりすることである。また、世界の共通言語である SDGs を使うことにより、内外への発進性が高まる点も特徴だ。
SDGsは共感を呼ぶツールでもあり、まちのプランディングにもなる。人々が住んで「いいな」、訪れて「いいな」と思う気持ちは重要で、それはシビックプライドやwell-being(より良き幸せ)につながっていくのだ。
「SDGs未来都市」の発展
「⾃治体SDGs推進評価・調査検討会」によるSDGs未来都市の総評では、過去から何度も応募を続けて今回やっと選定された自治体が多くあったことも、今年度の特徴だという。
選定には至らずとも提案を継続・改善することは、確実に自治体の政策形成に好影響を与えるだろう。選定に漏れたことも世に公開される「ガラス張り」の制度なので、緊張感があると思う。
総評では、次の通り締めくくっている。
「次年度は当施策も6年目を迎える。地域の抱える課題は多種多様であり、外部環境の変化や地域の実情を踏まえた効果的な取組の推進がより一層重要となっている。SDGsの理念を踏まえ持続可能なまちづくりを行っているか否か、地域の実力が改めて問われる時代を迎えている」
筆者もこの制度が、岐阜市のように日本全国の地方創生の実現に刺激を与えていくことを期待している。