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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。ウクライナ侵攻でSDGsはどうなった? 2023年はサプライチェーンが重要に

2023年4月30日

 

 

Forbes Japan Webからの転載

https://forbesjapan.com/articles/detail/53202

Getty Images

 
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻。今年の漢字に「戦」が選ばれた理由のひとつにのぼるほど、象徴的な出来事だった。

この戦争は、世界の安全保障をはじめ様々なシステムに大きな影響を与えている。経済制裁などを通じた経済問題、サプライチェーンの問題、難民への支援などにも波及している。

世界がさらに混迷の時代に突入する中で、SDGsはどうなったのか。ウクライナ侵攻がSDGsにどのような影響を与えたのか、具体的に見ていこう。

ウクライナ侵攻で悪化したSDGs


まず、ロシアのウクライナ侵攻で起こっていることは、SDGsの目標16「平和と公正性」を根底から揺るがすものだ。

この目標のマークには、平和の象徴のハトがギャベル(gavel:裁判や議会などで用いられる儀礼用の小型の木槌)の上に乗っているイラストが描かれている。

目標に付随する「ターゲット」まで読むとその意味がわかるのだが、「平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築すること」を指している。

報道などで目にすることはターゲットに明記されている様々な侵害に直接該当することがよくわかる。

ちなみに、ターゲットのキーワードだけを拾うと次のようになる。

16.1 暴力 / 16.2 子供虐待 / 16.3 司法への平等なアクセス / 16.4 組織犯罪 / 16.5 汚職や贈賄 / 16.6 透明性の高い公共機関 / 16.7 対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定/ 16.8グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加 / 16.9 出生登録を含む法的な身分証明/ 16.10 情報への公共アクセス / 16.a テロリズム・犯罪の撲滅に関する国際協力 / 16.b 持続可能な開発のための非差別的な政策推進

今、世界では、ウクライナで起こっている事実の裏付け作業が進んでいる。これを国際司法裁判所に持ち込むことで、戦争犯罪への糾弾といった動きにつながるが、目標16番を中心に平和と公正性の両方の側面で事態が評価されていくだろう。

サプライチェーン管理がより重要に


企業にとってSDGsは事業のチャンスを示すリストであると同時に、リスクの洗い出しにも役立つ。これまでは環境、人権、法令、労働が主なリスクだったが、今は健康、世界の情勢、そして地政学的リスクが重要要素として加わったといえる。

特に地政学的リスクは、サプライチェーンの各段階がどの国で行われているかにかかわる。米国などでは、CSRを超えてCPR(Corporate Political Responsibility:企業の政治的責任)という表現も使われている。元々は政策へのロビー活動をはじめとする企業の政治活動や政治・政府との関わり方をとらえた考え方だが、参考になる。CPRのためにSDGsを「混迷の時代の羅針盤」として活用するのである。

これまでは企業がSDGs 経営に取り組むメリットとして、社会課題の解決を通じた新たなビジネスの機会、といった文脈で“チャンスの面”が強調されることが多かったと思う。

しかし、今回のコロナ禍やウクライナ侵攻によって、SDGs がリスク管理にも活用できることに注目が集まった。先進的な企業ではSDGsのターゲットに基づき、サプライチェーンにかかわるリスクを洗い出しているのだ。

サプライチェーンに最も関連する目標は12「持続可能な生産と消費」である。この目標には、次のようなターゲットがある。

「2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発および自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする(12.8)」

このように、消費者から持続可能なライフスタイルに向けた情報開示が求められる中で、調達や製造の現場からの情報に対し、SDGsやサステナビリティ部門がチェック役となる必要がある。そして何よりも重要なのは、経営層がSDGsを「経営マター」として捉え、責任あるサプライチェーン・マネジメントを行うことだ。

例えば、認証マークを取得済みの原材料を使用する、工場の労働環境をチェックする、といった配慮を行うこと。社会的責任を果たすためには、適宜現地視察や調査も必須であろう。

そして、サプライチェーン・マネジメントの担当者は常に世界で何が問題になっているのかをウォッチし、SDGsを羅針盤として自社に照らし合わせて先読みして対処することが重要だ。
 
なお、サプライチェーンに関する問題の本質は、以下の5つである。

① 消費者に選ばれないようなものはつくらない
② 調達問題発生時のレピュテーション(評判)・ダメージが非常に大きい
③ 従って、企業規模を問わず、経営マターとしてサプライチェーン・マネジメントに取り組む
④ 常に世界情勢の分析を怠らない
⑤ 以上を経営問題として経営層が把握する

サプライチェーンのリスク管理については、自然災害対策などの対応であるBCPの手法に加え、より深いリスク管理が求められ、そこにSDGsが機能する。

中堅中小や非上場企業の企業も必ずどこかのサプライチェーンに属している。企業は、自社がサプライチェーンのどこに位置し、問題が起きた際にどのような影響があるかを把握すべきである。そのうえでビジネスモデルの見直しにもSDGsが有効だ。


出所:筆者作成『Q&A SDGs経営増補改訂・最新版」より

SDGsを経営マターとして戦略にビルトインし、羅針盤として活用しつつ、経営の舵取りと社内の意識改革を推進することができる。改めて、SDGsの「自分事化」のコツをつかむ必要がある。 

SDGsは世界で通用する羅針盤


次から次と世界を揺るがす事態が起こる「混迷の時代」。世界で通用する何らかの羅針盤が欲しくなるところだ。

振り返ると、2015年9月に国連加盟193カ国すべての合意で、SDGsを盛り込んだ「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されたことは、奇跡的だったかもしれない。

世界感度が、ともすればずれがちな日本企業は、今こそSDGsを「自分事化」してグレートリセット(大変革)に向けてこれを使いこなす必要があるだろう。

筆者は、自身のキャリアで産官学のすべてを経験したが、SDGsのような関係者の連携を基本にする、世界に通用する羅針盤の重要性を改めて実感している。


本稿は10月発売の、筆者の最新刊『Q&A SDGs経営 増補改訂・最新版』(日経BP 日本経済新聞出版)の内容の一部を再編集しています。

 

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