2023年10月26日
三井ホームのサイトより転載です。
https://www.mitsuihomeclub.com/Column/mirai/003/
ここ数年、耳にする機会が増えた「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」。言葉は聞いたことがあっても、意味をきちんと知らないままになっていませんか? 現在は、小・中学校、高校などの教育現場でもSDGsに関する指導は重要になっており、親世代より子ども世代の方がSDGsへの感度は高い傾向にあるかもしれません。未来のために、世界中が参加・協力すべき目標(目標年次は2030年)。この機会に、“我が家のSDGs”について考え、ご家族で取り組んでみてはいかがでしょう。ESG/SDGsコンサルタントの笹谷秀光さんにポイントを伺いました。
一人ひとりが“自分ごと”にしていこう
そもそも、SDGsとは?
「SDGsって何をすればいいの?」
という質問に、あなたは何と答えますか? 改めてきちんと理解しているか、どのように実践すればいいのか、と問われると答える自信がない方も多いと思います。とはいえ、そんなに難しいことではありません。マイバッグを持ち歩いたり、使わない部屋の電気は消す、食品を無駄にしないなど、皆さんが既に実践していることもあるはず。そこで、ここではSDGsについての基本と、ご家庭で今日から始められるSDGsの取り組みをご紹介します。
SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットで採択されました。貧困や不平等、格差、気候変動の深刻化など、世界中の問題を根本的に解決し、先進国、新興国、途上国といった国単位だけでなく、企業や個人、すべての人たちにとってより良い未来をつくるために世界共通の17の目標を設定。これらの目標を、2030年までに達成することを目指し、すべての国で様々な取り組みが行われています。日本での認知度も、今や9割を超えると言われるほどで、企業、学校生活、私たちの日常生活にも浸透しています。
SDGsというと上記の図の17の目標が有名ですが、それはほんの入り口にすぎません。実際はそれぞれの目標をより具体的に実践するため、169のターゲット(具体的目標)と成果測定のための232(重複を除く)の指標が定められています。そのため、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といった表層の言葉のみではなく、いかにそれらを“自分ごととして”受け止めて実践していけるかが重要。日本の場合は、そこがまだ弱い部分でもあります。
ここ数年は教育現場において、SDGsに関する内容が追加された「新学習指導要領」が全面実施され、持続可能な世界の担い手を育成すべく非常に熱心な指導が行われています。ご家庭でも、子どもから刺激を受けた親が、SDGsについて認識を深めるという場面も増えています。
世のため、人のため、自分のため。そして子孫のため
「SDGs=持続可能な開発目標」という直訳で考えると、「何か難しい、大変なことをしなければならないのではないか」と、気が重くなってしまう人がいるかもしれません。ならば、持続可能な“開発”ではなく“発展”という言葉に置き換えてはいかがでしょう? 発展は、大きな社会にも小さなコミュニティである家庭にも、すべてに必要なこと。それが世界共通の認識だと考えると理解しやすくなると思います。
また、持続可能な社会、サステナビリティといった言葉は“世のため、人のため、自分のため。そして子孫のため(次世代のため)”と「世代軸」を加えて考えます。遠い将来まで恥ずかしくない行動、活動をするのがSDGsの本質と理解すると、日常生活にも取り入れやすくなります。
5つのPを意識してみよう
SDGsの17の目標は、「5つのP」への世界的な危機感から生まれています。5つのPとは、人間(people)、地球(planet)、豊かさ(prosperity)、平和(peace)、パートナーシップ(partnership)のこと。
17の目標を当てはめると、次のようになります。
- ・人間(people)→すべての人の貧困と飢餓をなくし、健康的な生活、質の高い教育、ジェンダー平等、安全な水とトイレの確保を保障する(目標1〜6)
- ・豊かさ(prosperity)→すべての人が、不平等のない、豊かで充実した生活を送れるように、産業と技術の革新を図る(目標7〜11)
- ・地球(planet)→責任を持った生産と消費、気候変動への対策、海と陸の豊かさを守る(目標12〜15)
- ・平和(peace)→すべての人が公正で恐怖や暴力のない平和な世界に生きられるようにする(目標16)
- ・パートナーシップ(partnership)→国連機関から政府、民間、個人まで多様な人が協力して行動をおこす(目標17)
「SDGsメガネ」で世の中を見る
「世の中は急速に変わっている」ことを自覚しよう
では、実際にご家庭で“自分ごと”としてSDGsに取り組んでいくには、何から始めれば良いのでしょうか。学校でしっかりとSDGsの概要を学んでいる子どもはもちろん、まず親世代には「世の中の急速な変化」に敏感にアンテナを張ってほしいと思います。
例えば、ここ数年の脱プラスチックの動きは顕著な例でしょう。今や、プラスチック製以外のストローを使っているレストランやカフェは珍しくありません。そもそもストローを提供しない店も増え、これまで普通だったことが、確実に変化しています。今までと同じ感覚ではいけないという認識をしっかり持つことが大切です。
実感がわかないことに対して、人はなかなか本腰を入れて取り組めません。日本人のSDGsの認知度が9割を超えているのに、なかなか行動が伴わないのはそのせいです。SDGsを羅針盤として、「どこが問題なのか」に注目し、理解して納得する。それを繰り返すことで、世の中を見る目線を変えていけると考えています。
“SDGsメガネ→頭→アクション”のサイクル
お勧めしたいのは、まずは「SDGsメガネ」を自分の中に持つ意識です。「SDGsメガネ」を持つとは、SDGsを基準として、そのフィルターを通して世の中の物事を観察してみるという意味です。
SDGsメガネで世の中を見てみると、「どこに、どんな課題があるのか(何番の目標に関わるのか)」が分かるはず。そのきっかけを掴めば、次にSDGsを頭で考え(どうしたら良いかと考えること)、さらにSDGsアクション(行動)をおこすといった具合に、自然とSDGsの取り組みができるようになるでしょう。
例えば、買い物に行ってプラスチック製のレジ袋を使ったとします。すると、そこには目標12の「つくる責任 つかう責任」が見えてきます。ではどうすればいいのか、と考えると「次回からはマイバッグを持っていく」というアクションが出てきます。さらに、マイバッグを持つだけでいいのかという思考から次なるアクション———例えば、より環境負荷が少ない素材のマイバッグを選ぶということにもつながる可能性があるわけです。
学校でSDGsの理論をしっかり学んでいる若い世代、情報量や経験が豊富で柔軟性や応用性が高い親世代、シニア世代というように、様々な年齢や立場の家族が協力して取り組むことで、家庭でのSDGsの取り組みはより活発になると思います。
家族で協力しつつ取り組むSDGs
先ほどお話ししたSDGsメガネで見てみると、家庭内にも17の目標に紐付いた多くの課題があることが分かります。
例えば、誰もいない部屋の電気がつけっぱなしだったり、冷暖房を使いすぎていたり、お風呂に入るときにシャワーを流しっぱなしで体や髪を洗っていたり……といった課題が見えてきたとします。
それに対するアクションは、17の目標に貢献します。使っていない部屋や場所の電気をこまめに消し、冷暖房を人の健康面も考えた上で適温設定にすることは目標7や目標13に。シャワーをこまめに止めれば目標6。プラスチック製品を使わないように心がけることは、目標12や目標14に貢献したことになります。
もし、家庭内で介護をしていらっしゃるなら、ケアマネージャーさんや医療機関とのパートナーシップ(17番)も重要でしょう。育児や家事など家庭内での役割分担を考えることは、目標5のジェンダー平等につながります。
その他、家庭で今から始められるSDGsの取り組みに関しては、以下のようなキーワードをヒントに、家族で探してリストアップすると良いでしょう。
- 1 身近なコミュニティでの子どもの見守り
- 2 栄養改善、子ども食堂、地産地消
- 3 健康を守る
- 4 学んだことを家族でシェア
- 5 家庭内での役割分担
- 6 水を大切に使う、水害への意識喚起
- 7 再生可能エネルギー、省エネ
- 8 働き方改革、リモートワーク
- 9 技術とイノベーション
- 10 障がい者や人権について、話し合ってみる
- 11 身近なコミュニティ(町会など)とのつながり
- 12 食品ロスの軽減、冷蔵庫の管理、ゴミの仕分け
- 13 クールビズ
- 14 プラスチックの削減
- 15 庭の植栽、緑を増やす
- 16 近隣との連携で安全性を確保、ルールを守る
- 17 家庭内外のパートナーシップ
ESG/SDGsコンサルタント/千葉商科大学教授・サステナビリティ研究所長 博士(政策研究)東京大学法学部卒業。 1977年農林省入省、環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長を経て2008年退官。同年伊藤園入社、取締役などを経て2019年4月退職。2020年4月より千葉商科大学教授。日経BPコンサルティング社シニアコンサルタント、サステナビリティ日本フォーラム理事、日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、文部科学省「青少年の体験活動推進企業表彰」審査委員、未来まちづくりフォーラム実行委員長。全国通訳案内士資格保有(仏語・英語)。現在、幅広くパネリストや講師として登壇。