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「三方良し」通信

笹谷秀光の「三方良し」通信。「ポストSDGs」はギリシャのサステナ・ツーリズムに学べ

2024年6月25日


  1. 外務省は2024年を「ポストSDGsの検討元年」と位置付けた
  2. 日本と世界の成功事例から学び、持続可能な社会の実現を目指す
  3. ギリシャのサステナブル・ツーリズムと食の無形文化遺産から学ぶ

2030年に向けたSDGs(持続可能な開発目標)の折り返し点を超えた今、2024年を「ポストSDGsの検討元年」にしたい。最近、欧州を訪れ、初めてギリシャに足を運んだ。特に最近インバウンドの盛り上がりで話題の「サステナブル・ツーリズム」の観点から、ポストSDGsに向けた視点を得るためのヒントが多く見つかった。(千葉商科大学客員教授/ESG/SDGsコンサルタント=笹谷 秀光)

■ポストSDGsのタイムライン

4月22日、外務省で上川陽子外務大臣の出席の下、「国際社会の持続可能性に関する有識者懇談会」第1回会合が開催された。外務省によれば、上川大臣は冒頭で「自由闊達な議論を通じ、2030年以降も見据え、我が国の持続的成長と国際社会全体の持続可能性の確保のあり方をクリエイティブに検討していきたい」と述べた。

これにより、ポストSDGsの検討が正式にキックオフされたといえる。国連のSDGsは2030年までに貧困や格差をなくすことなどを目指しているが、新型コロナやウクライナ情勢の影響で達成が困難と指摘されている。

今年9月の国連会議では目標達成の取り組みの加速と2030年以降の新たな目標設定が議論される見通しである。これに先立ち、外務省は先月下旬に大学教授やエネルギー専門家など10人をメンバーとする有識者懇談会を設置。外務省は次の目標設定を巡る各国の主導権争いを想定し、早期の議論開始で国連での主導を目指していると思われる。

国連事務総長は、2023年9月のSDGサミットで、SDGsの169ターゲットのうち進捗が順調なものは約15%に過ぎず、半分近くは不十分、約30%に至っては停滞・後退しており、2030年までのSDGs達成に向け危機的状況にある旨を強調した。

SDGsは2015年9月に採択以降、4年ごとにストックテイクされてきた。このため2019年と2023年にSDGサミットが開催された。次回は2027年であり、2030年まで残すところあと3年というタイムラインになる。

SDGsの前身であるMDGs(ミレニアル開発目標)は2000年から2015年までの期間で、終了3年前の2013年から次期の在り方について議論が始まり3年間の議論を経て2015年にSDGsに結実した。これに倣うと、2027年にはポストSDGsの議論が本格化するであろう。

そこで、2027年に検討を開始するのでは遅い。2030年に向けたSDGs(持続可能な開発目標)の折り返し点を超えた今、2024年を「ポストSDGsの検討元年」にすべきと思うが、外務省の動きも注視していく必要がある。

ポストSDGsのタイムライン

ポストSDGsのタイムライン

 

■日本と世界の先進事例から学ぶ

2030年のSDGs達成期限が迫る中、「ポストSDGs」に向けた新たな取り組みが求められている。気候変動、社会的不平等、デジタル化の進展、国際協力の必要性といった課題を中心に、各地域や企業がどのようにして持続可能な発展を続けるかを探求することになる。

特に注目すべきは、企業の創造性とイノベーション力が「ポストSDGs」において果たす役割である。SDGsの17目標ではカバーしきれない部分を補完し、日本発で新たな目標を提案することで、国際社会に貢献する道を模索すべきだ。

筆者はこれまで、17目標と169のターゲットはいわば「規定演技」であり、それではカバーできない部分を「自由演技」として構想すべきだといってきた。

日本の強みを浮き彫りにするため、世界各地の先進的な取り組みからもヒントを探り、日本ならではのアプローチや技術を活かした解決策を見出すことで、より効果的な持続可能な発展を実現する。

本連載では今後数回にわたり、持続可能な社会の実現に向けた具体的な事例を提示し、読者と共に「ポストSDGs」を考察していきたい。

■ギリシャから学ぶサステナブル・ツーリズム

最近、欧州を訪れ、初めてギリシャに足を運んだ。特に最近インバウンドの盛り上がりで話題の「サステナブル・ツーリズム」の観点からヒントが多かった。

アテネの中心には「アゴラ」の遺跡があり、これは2500年以上前の古典時代にアクロポリスの下に作られたものである。アゴラは「広場、市場」を意味し、市民交流の場であった。この地区は1980年代に荒廃したが、再開発を通じて多文化共生社会の構築が進み、持続可能な観光地として再生した。

このことが評価され、持続可能な観光地の国際的な認証団体 「グリーン・デスティネーションズ」が、ちょうどアテネで2022年に開催したカンファレンス「グリーン・デスティネーション2022」の会場で「トップ100デスティネーションストーリー」の受賞地を発表した際にアテネも選ばれた。

(詳しくは、グリーン・デスティネーションズのサイト https://www.greendestinations.org/
2022については、https://tempo.greendestinations.org/home/what-we-do/solutions-for-travellers/top-100-2022-destination-stories/

最近では、アゴラ地区の「キプセリ」と呼ばれるエリアには多くの劇場もあり活気がある観光地になっている。かつて財政危機に落ち入ったギリシャは、今では観光を一つの軸として大きく持ち直しているという印象を持った。

ギリシャ大使だった清水康弘氏(元環境省)とは米国大使館で一緒に仕事をしたが、彼によれば、ギリシャは、アテネのヨーロッパ文明の発祥の地であり、現在の西洋文明の源流とみなされている。やはりプラトンやアリストテレスは現在の知識人の教養の一部であり、世界に最初に民主主義を生んだ国でもある(清水康弘著「魅惑のギリシャ―清水大使の案内記―」より)。

思えば、世界遺産の登録を行うユネスコ(国際連合教育科学文化機関、United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization U.N.E.S.C.O.)のロゴは古代ギリシャを代表するパルテノン宮殿をかたどったものだ。

アテネから最南端に位置するスニオン岬の海の守護神ポセイドンに捧げられた神殿

アテネから最南端に位置するスニオン岬の海の守護神ポセイドンに捧げられた神殿

■グリーン・デスティネーションズ

ちなみに、これまでの「グリーン・デスティネーションズ」選定のトップ100(2014年から実施)には日本の街も多く選定されている。京都や白川郷をはじめとして選定され、2022では、阿蘇市、下呂温泉町、箱根町、東松島市、岩手県釜石、南知多町、那須塩原市、小国町、愛媛県大洲市、小豆島町などが選定されている。

グリーン・デスティネーションズ認証には、「観光地マネージメント」「自然と景観」「環境と気候変動」「文化と伝統」「社会福祉」「ビジネスとホスピタリティ」など合計100項目の評価基準が設定されており、今後のヒントになる。

■島の観光と食の無形文化遺産

エーゲ海には特色ある島々があり、特にロードス島やティロス島、サントリーニ島が注目されている。ロードス島では、サステナブル・ツーリズムのための研究所「The Rhodes Co-Lab」が設立され、ティロス島は「廃棄物ゼロの島」としてサーキュラー・エコノミーを推進している。

サントリーニ島は、伝統的集落保全と観光開発が進められ、世界屈指のアイランド・リゾートとして人気を博している。ヨーロッパ最古の文明ともいわれるエーゲ文明発祥の地であり、古くから海上交通の要衝として栄えてきた島である。

紀元前16世紀に島内火山の大爆発によって現在のようなカルデラ状の地形が形成され、特に「イア」という伝統的集落では、19世紀につくられた「洞窟住居群」が、見事な景観を形成している。観光での人気の高い島で、特に美しい街並みと夕日が有名だ。

この美しい島は1970年代あたりには荒廃し過疎化も進んだが、ギリシャ政府が1978年11月に「伝統的集落法」を定め、伝統的集落保全と観光開発を進めた。今では、世界屈指のアイランド・リゾートとして圧倒的な人気を誇り、日本からのツアーでも定番にもなっている。

食のみならず、サントリーニでは良質な白ワインにも力を入れている。サステナブル・ツーリズムでは食文化も重要である。ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」は、自然を尊ぶ日本人の気質に基づいた食文化として評価されている。

一方、ギリシャを含む「地中海料理」が複数国で共通に登録されており、オリーブオイルや野菜、魚を中心とした健康的な食生活が特徴である。これらの食文化は、コミュニティ形成や家族の健康を重視したものであり、観光地の魅力を高めている。

これは住民のみならず旅行者のwell-beingにとって重要な要素を提供する。

サステナブル・ツーリズムは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」をはじめとして、目標8「働きがいも経済成長も」の中の持続可能な経済成長、すべての人が働きがいと十分な収入を得ることのほか、各種環境関連の目標が関係する。このような複合課題への対応によるwell-beingの追求は、ポストSDGsの重要な要素の一つであろう。

 

サントリーニ島の夕日

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