2024年11月13日
KDDIに学ぶポストSDGs時代における企業のDE&Iとは
記事のポイント
- KDDIは多様性、公平性、包摂性を重視し、社員が活躍できる環境を整備
- ポストSDGs時代には、DE&Iを活用し社内外の変革が求められる
- 社会と協働し、新たな価値を創出し、持続可能な未来を目指す
2024年10月10日、KDDIは、SDGsユニバーシティにて、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)に関する講演を行った。講演者はKDDIの内海かなめ氏(人事企画部副部長・DE&I推進担当)で、1994年に入社し、現在はDE&Iを中心に人事施策を牽引している。対談も通じてDE&I の取り組みがどのように持続可能な社会構築に寄与するのか、ヒントを探った。(千葉商科大学客員教授/ESG/SDGsコンサルタント=笹谷秀光)
■DE&Iの概念とKDDIの取り組み
DE&Iは、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)の3つから構成されている。これらの要素は、企業が多様な人材を活かし、社会に対する責任を果たすための重要な基盤である。KDDIはこれら3つの要素を以下のように解釈し、実践している。
- ダイバーシティ: 多種多様な個性や価値観、経験を持つ人がKDDIに集うこと。社員一人ひとりがプロ人財を目指すジョブ型の浸透、通信以外の事業領域の拡大という経営戦略を踏まえ、「専門性」や「働き方」の多様性も重視している。KDDIは、多様な背景を持つ社員がそれぞれの個性を活かせる環境を整備している。
- エクイティ: 全社員が持てる能力を存分に発揮できるよう、個々のニーズに応じた支援を行う。講演では、KDDIが「同じ高さの台」を用意する従来の平等から「一人ひとりに合わせた台」を提供する公平性への進化を図解で説明した。この取り組みは、企業として真の公平な環境を構築するために欠かせない。
- インクルージョン: 違いを尊重してすべての人が認め合い、新しい価値の創出に向けて能力を活かすこと。KDDIは全社員が自分らしく働ける職場づくりを推進し、「誰もが思いを実現できる環境」を目指している。
KDDIの中長期ビジョン「KDDI VISION 2030」では、「誰もが思いを実現できる社会」を掲げ、持続可能な社会のプラットフォーマーとしての役割を果たすことを目標としている。特に、5Gやデータ・生成AIを活用した事業変革を通じて、社会に貢献しながら企業としての成長を実現する姿勢が示されている。その中心にあるのがDE&Iであり、多様な人材が活躍できる環境を整備することで、新たな価値を提供し続けることが求められている。
KDDIにおけるDE&Iの「多様性」とは表層の多様性(見た目手で分かる性別や年齢、国籍など)だけを指すわけではない。全社員が個々のスキルを最大限発揮し、誰もが思いを実現できる環境を整えることを目指している。その上で、DE&Iの取り組みとして、個人の自律的なキャリア形成とダイバーシティ推進という大きく2つの柱に分けて講演では紹介した。まず、個人のキャリア形成に関しては、ジョブ型人事制度を中心に、社員が自ら成長し、キャリアを築くための仕組みが整備されている。キャリアポータルやセミナー、スキルアセスメント、ジョブ図鑑といった支援ツールを活用し、公募や副業の機会も提供することで、多様なキャリアパスの選択が可能となっている。
一方、ダイバーシティ推進の取り組みとしては、ジェンダーギャップの解消、障がい者の雇用促進、育児や介護との両立支援、LGBTQ+の理解促進、外国籍人財の活躍支援といった施策が進められている。これにより、さまざまな背景や価値観を持つ社員が、その多様性を尊重されながら活躍できる環境が構築されている。KDDIは、これらの施策を通じて、個人の多様性と組織の成長を同時に実現し、競争力の向上を図っている。
KDDIは、SDGsをテーマにする、2025年の大阪・関西万博で、5GやAI技術を活用し、未来社会をデザインするためのスマートシティやエネルギー効率化のソリューションを展示する計画である。これにより、持続可能な未来社会への技術的な貢献を具体的に示す。「フューチャーライフ万博・未来の都市」の プラチナパートナーとして「Society 5.0と未来の都市」をテーマに展示する。また、DE&Iの視点を取り入れ、全ての来場者が楽しめる環境作りや、多様な人々が共に働く場の提供を目指している。これにより、KDDIは技術革新と社会的包摂を万博でも推進していく。
KDDI内海氏が使ったスライドより
■ポストSDGsの課題とKDDIの挑戦
ポストSDGsとしては、17目標と169ターゲットを超えた検討が求められるであろう。2030年以降、企業が目指すべきは、今回のDE&Iをはじめ、気候変動、社会的不平等、新技術に伴う倫理的課題などへの複合的対応だ。KDDIはカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みを進める一方で、社会的公平性の実現や技術の倫理的利用にも取り組んでいるが、すべて企業戦略として位置づけられている。
内海氏は対談で、会社全体でのサステナビリティやDE&Iの学びの実践を紹介しつつ、個々の社員が自らの業務と関連付けていく、社会とどのように関係しているのか常に意識し続け、これらの概念を「自分ごと化」していくことが必要だと強調していた。それによってそこから生まれるその会社や組織「ならでは」のストーリーを組み立てていくことがポイントだと述べた。
筆者は、ポストSDGs時代において、企業は単に社会的責任を果たすだけではなく、未来社会に向けた価値創造を積極的に推進し、持続可能な発展をリードする役割を担うことが求められている。そこでKDDIが推進するDE&Iの取り組みが企業内部の改革だけでなく、社会全体に対して持続的な影響を与えるべきだという考えは大変参考になった。
ポストSDGs時代において、企業の社会的責任は広がりを見せる。SDGsの達成だけではなく、より深い課題への対応が求められる中で、KDDIの取り組みは一つのモデルケースとなるだろう。
■DE&I推進は持続可能な未来の基盤
企業のDE&I推進は持続可能な未来を築くための基盤である。
企業は、社内の多様性を活かしてイノベーションを生み出すだけでなく、外部のステークホルダー—顧客、地域社会、パートナー企業—と連携し、グローバルな問題解決にどう貢献するかが鍵となる。技術革新が進む中で、データプライバシーや倫理的な課題に対して企業が率先して責任を果たす姿勢が必要だ。
企業がポストSDGs時代において、SDGs達成期限後の新たなステージに向けてさらに深い貢献をするためには、社内外の連携を強化し、外部との関係を通じて社会に具体的な価値を提供し続けることが不可欠である。このように、ポストSDGs時代には企業の役割が一層複雑化し、単なる内部施策ではなく、社会全体とどう連携し、共に成長するかが新たなスタンダードとなるだろう。今回の対談を通じて、その未来に向けた具体的なアクションに向けた多くのヒントを得た。
(左から)筆者、内海かなめ氏、志太勤一SDGs研究所コミッショナー