2024年12月29日
「ポストSDGs」の方向性: 外務省の責任者に聞く
記事のポイント
- ポストSDGsの検討が世界で始まり2027年が重要な年と予想される
- SDGsの国内レビューが進められており2025年に発表される
- ポストSDGsにおいても企業の創造性とイノベーションの役割が重要である
これまで、ポストSDGs検討の一環として、政府でSDGsの取りまとめを担当している外務省国際協力局地球規模課題総括課の安藤重実課長による講演と筆者とのトークセッションを行う機会を得た(外務省にも後援をいただいている「SDGsユニバーシティ」12月19日実施)。安藤課長は1999年外務省入省、在インドネシア日本国大使館参事官、在アメリカ合衆国日本国大使館参事官、総合外交政策局国連企画調整課長、同局国連政策課長を経て、2024年10月から現職についた。これをもとに、ポスト2030年について考察を深める。(千葉商科大学客員教授/ESG/SDGsコンサルタント=笹谷秀光)
■SDGsの現状と課題
まず安藤課長はSDGsの現況について次の通り整理していた。
SDGs採択からすでに8年が経過する中で、その達成には依然として多くの課題が残されており、また規定された目標だけでは急速に変化する社会問題に対応しきれない面も浮き彫りになっている。国連による2024年の進捗報告では、各目標の達成が依然として難しいことが明らかにされた。
SDGsの17の目標と169のターゲットの達成には、政府や自治体だけでなく、企業の関与が不可欠であり、企業は本業を通じて社会的価値と経済的価値を同時に追求する新たな価値創造の担い手としての役割を期待されている。
こうした背景から、2030年以降の「ポストSDGs」への関心が高まっている。途上国はまずはその達成に全力を尽くすべきだとしているが、各国や関係者の間では既存の目標を補完しつつ、新たな持続可能な開発の枠組みを模索する動きが活発化していることも事実だ。
ポストSDGsについて講演する安藤課長
■「国連未来サミット」
SDGsは2015年9月に採択されて以降、毎年進捗状況が評価され、4年ごとに首脳級で進捗状況が評価されてきた。次回のSDGサミットは2027年であり、2030年まで残すところあと3年というタイムラインになる。このような中で2024年9月に国連で開催された「国連未来サミット」が注目される。このサミットでは「未来のための約束(Pact for the Future))が採択された。
安藤課長は次のとおりレビューした。現在と将来世代のニーズと利益を守るため、56の行動をとることを表明した政治文書である。全文と5つの章(①「持続可能な開発と開発資金」、②「国際の平和と安全」、③「科学技術・イノベーション及びデジタル協力」、④「若者(ユース)及び未来世代」、⑤「グローバル・ガバナンスの変革」)で構成されている。
これに加え、筆者はこのサミットの前に発表された、2030年以降に向けた長期的な枠組みとして、ヨハン・ロックストロームやジェフリー・サックスらによる「SDGsを2050年まで延長する提言」(2024年6月にNature誌に掲載)にも注目している。2030年と2040年に中間目標を設定し、SDGsの枠組みを長期的に維持し、2050年までに気候変動や生物多様性の損失といった地球規模の課題に対応するためのロードマップが示された。企業の役割も強調されていると述べた。
安藤氏(右)と筆者
■日本の検討状況
安藤課長は、これらの海外での動きも把握の上、日本としても分析を深めていきたいとしている。
日本では、4月22日に上川陽子外務大臣(当時)のもとで「国際社会の持続可能性に関する有識者懇談会」を立ち上げ、2030年以降の持続可能な社会の在り方について議論し、「中間とりまとめ」(令和6年9月)が発信された。
この中間とりまとめでは、国際社会の持続可能性を確保し、日本の成長と利益を両立させるための課題と方向性を示唆している。日本は資源の海外依存や少子高齢化といった問題に直面しており、GXやDXによる経済・社会構造の変革が必要である。日本は「人間中心の国際協力」を推進し、2030年以降も視野に入れたグローバルなリーダーシップの発揮が求められているとした。
安藤課長は、この検討成果も継承しつつ検討を進めるうえで、まずは、我が国のSDGs実施指針の改定(2023年12月改定)の内容をよく理解してほしいと述べた。ポイントは以下のとおりだ。
人口減少や少子高齢化が進む中、国内的には、SDGsの理念は我が国が持続可能な発展と繁栄を実現していく上で確固たる原動力であり、各レベルで次の点が重要である。
国家レベル: SDGsと「新しい資本主義」との連携。
地方レベル: SDGsは地方創生の旗印。地方での浸透は日本の大きな特徴。
ビジネス: 事業を通じてSDGs実現との方向性はますます明確化。
市民社会を含む民間: 広範なステークホルダーの間で取組の広がり。
そして実施にあたっての指針は次の通り多面的である。
⦁ 持続的な経済・社会システムの構築
⦁ 「誰一人取り残さない」包摂社会の実現
⦁ 地球規模課題への取組強化
⦁ 国際社会との連携・協働
⦁ 平和の持続と持続可能な開発の一体的推進
これに即して、2030年以降も見据えた国際的な議論も主導すべく、自発的国家レビューを進めている。
自発的国家レビュー(VNR:Voluntary National Review)とは、各国がSDGsの進捗状況に関する自主的報告を行う定期的レビュー。国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)で発表される。日本は2017年に第1回発表(岸田外務大臣)、2021年に第2回発表(茂木外務大臣)を実施し、次は2025年に第3回発表を行う予定である。
■ポストSDGsの検討のタイムライン
これらを踏まえ、安藤課長は、ポストSDGsに向けた検討のタイムラインを説明した(説明スライドは図のとおり)。加えて、2025年の大阪・関西万博もSDGsをテーマにしているので重要である。
ポストSDGsに向けた今後のスケジュール感(安藤課長のスライドより)
この中で、未来サミットで採択された「未来のための約束(Pact for the Future))でのポストSDGsに関連する次の記述が重要だ。2027年には議論が始まるので、今から準備し玉込めする必要がある。
ポストSDGsについて「2030年まで及びその後に持続可能な開発をいかに推進するかについて、2027年のハイレベル政治フォーラムで検討」と間接的に言及(行動12)
■ポストSDGsにおける日本企業の役割
今後の企業の役割について、安藤氏は、SDGs実施指針の中で、ビジネスでは、企業が経営戦略の中にSDGsを据え、個々の事業戦略に落とし込むことで、持続的な企業成長を図っていくこと、様々なステークホルダーと連携し多様な価値を協創することで、SDGs達成に向けた機運を国内外で醸成することが求められると記載されていると指摘した。
筆者からは、最近企業のSDGs実装が進む中で、17目標・169ターゲットの既存枠組みを活用する、いわば「規定演技」を超えた「自由演技」にも取り組む動きが増えてきていると指摘した。具体例として、世界的な自動車企業が掲げる「ワクワク」「ドキドキ」「感動」といった価値や、日用品企業が提供する「きれい」という価値、フードサービス企業が展開する「ほのぼのとした温かさ」「すべては未来の子どもたちのために」などが挙げられる。これらはSDGsの枠組みを超え、より高次元のウェルビーイングを具体化する取り組みであると述べた。
これを受けて安藤課長は、今後ともSDGsの達成に向けてビジネスの力による創造性とイノベーションが不可欠であると強調した。ビジネスには常にチャンスとリスクの両面が存在するが、イノベーションを通じて改革を牽引してほしい。また、企業は内外で雇用機会を生み出す。企業内部の変革やステークホルダーに対する発信力の強化や異文化への理解が欠かせない。そして途上国とも対話して課題を洗い出し自社の強みを生かして世界に向けて日本の「顔」として発信してほしいとの期待が寄せられた。
コロナ禍の経験や深刻化する気候変動といった地球規模の課題に当面している今、影響は身近に実感され対応は待ったなしの状況である。これらに対して、ビジネスや行政や関係者の連携が必須だ。現場で活動されるビジネスのリーダーシップが重要であり、また、リスクを恐れず挑戦する姿勢が鍵となる。行政としては、引き続き連携をとってまいりたい、と締めくくった。
筆者も外務省に出向していたことがあるが、外交全般や在外公館はグローバル化時代に日本のビジネスにとってますます重要である。安藤氏のような幅広い知見のある方がSDGsを推進しているのは心強いと感じた。
今後、我々は、上記のタイムラインも頭において、新たな価値を創出する企業の動きが、ポストSDGsにおける重要な柱につながるよう今後とも最新の動きを分析していきたい。
志太勤一SDGs研究所コミッショナー(左)、安藤氏(中)と筆者(右)