2025年6月13日
日刊工業新聞「主張」欄「2025.5.5」で次のことを述べました。
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文明論としてのSDGs
―――ポストSDGsに備えよ―――
千葉商科大学客員教授 (政策研究)
笹谷秀光
現在、日本はスポーツや文化の分野で世界的に高く評価されている。米大リーグなどでの日本選手の活躍や、アニメ・映画や和食・日本酒の人気はその象徴だ。
一方で、経済や社会的仕組みにおける日本のプレゼンスは、世界の舞台では控えめであると言わざるを得ない。このギャップに、多くのビジネスパーソンが違和感を覚えているのではないだろうか。
これをを埋めるために、2015年に国連で策定された30年を目標とする持続可能な開発目標(SDGs)が重要な役割を果たす。SDGsは、世界共通の目標であるので、比較するとその取り組み方や理解度が各国の文明の質や成熟度を測る「リトマス試験紙」となる。日本は、教育や技術革新の分野で高い評価を得ている一方、ジェンダー平等や気候変動対応の分野で遅れを取っており、SDGsランキングでは18位に甘んじている。
日本は、SDGsの解読に多くの時間を費やしてきたが、ここに来てようやく認知度が9割まで上がった。しかし、まだ本質的な意味で十分に使いこなせる人が多いとは言えない。SDGsを単なるバッジやマークで理解するだけでなく、17目標に加え169のターゲット(具体的目標)も考慮したレベルで使いこなし、自社の成長に役立てるべきだ。
とはいえ、この順位を自虐的に捉える必要はない。日本は1億人以上の先進国の中ではトップだ。今後は教育や技術革新の強みを活かし、弱点を補完する取り組みが求められる。SDGsは、各企業や国が自らの強みと弱みを浮き彫りにし、それを克服しつつ活用するためのフレームワークである。
日本には世界に誇るべき独自の風習や社会システムが存在する。例えば、「もったいない」「おすそ分け」といった概念のほか、「母子手帳」や「交番」など他国で導入されたシステムもある。
おりしもインバウンド(訪日外国人)も目にする新一万円札の顔、渋沢栄一が提唱した「論語と算盤(そろばん)」の哲学は、ビジネスにおける倫理と経済のバランスを取る日本独自の思想である。これも間もなく本格化する30年以降の「ポストSDGs」の国連の議論に向けて日本が世界に提案する参考となる。日本は、ビジネスや社会制度について世界にリーダーシップを発揮する絶好のタイミングに来ている。