令和6年春の叙勲にて「瑞宝中綬章」を受賞しました(2024年4月29日付け)。受賞に際して、多くのお祝いの言葉を頂き感謝しております。
これもひとえに皆様の日頃からのご支援とご指導の賜物と心より感謝申し上げます。
VUCAの時代にどう生き抜くか
現代は、VUCA(Volatility: 変動性、Uncertainty: 不確実性、Complexity: 複雑性、Ambiguity: 曖昧性)の特徴が強く表れています。
この時代には、急速に進行する気候変動、地政学的な緊張が高まりつつある国際情勢、さらにAI技術を含むデジタルイノベーションの急速な進展が見られます。
これらの要因は企業や組織に対して、変動性と複雑性が高まるビジネス環境の中で、持続可能性の追求とAI技術を活用したデジタル変革を進めることを急務としています。
また、経済活動のグローバル化とデジタル化の進展は、企業や個人に革新的な戦略を採用し、不断の適応能力を求めています。
「不易流行」(ふえきりゅうこう)
この中で、松尾芭蕉の「不易流行」という考えを思い出します。芭蕉の俳論といわれるこの考えは実にクールです。「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」(『去来抄』)というもので奥が深いです。要するに、
「不易」は、いつまでも変わらないこと、「流行」は、時代に応じて変化すること
変化しない本質的なものをよく見極める一方で、新しい変化も取り入れていくことです。
実にサステナビリティ(持続可能性)の本質をうまく言い表す表現です。今、国づくり、地域づくり、企業経営に求められているのは、中長期的な展望に立った持続可能な(サステナブルな)設計です。
急速なグローバル化の中で、外国人が認めたり、国際機関が作ったものがすべて日本にあっているというものではありません。
「いいものは残る」。突き詰めればそういうことです。
「ポストSDGs」の展望と戦略
サステナビリティは体系化が重要です。世界に通用する共通言語であるSDGsを使い、投資家を中心に要請が高まっているESGにも対処し、最新の開示ルールにも対応するという複雑な取り組みです。これは経営にも直結する競争戦略の一角です。だからこそ経営トップマターになっており、ますます経営企画・戦略セクションの関与が高まっています。
持続可能な開発目標(SDGs)の2030年の目標達成期限が迫る中で、世界は「ポストSDGs」の時代への移行を模索しています。2024年9月の国連での未来会議で2030年以降のポストSDGsの検討のキックオフは、2027年のSDGサミットと規定されました。日本政府でもこれに向けた検討を開始しています。詳しくは次のオルタナ記事(2024年12月29日)をご参照ください。
https://csrsdg.com/column/3422.html
したがって、SDGsはこれまでが「理解と実装」フェースで、むしろこれからが「本格化、応用」フェーズで本番を迎えるのです。
新経営支援ツール「ESG/SDGsマトリックス」(笹谷マトリックス)
このための支援として、企業経営の経験と理論から「ESG/SDGsマトリックス」(笹谷マトリックス)をつくりました。ESG投資家にも効果的に伝わり、幅広いSDGsへの対応も訴求できる、発信力につながる企業経営支援ツールです。マトリックスの概要、イメージは次のページをご覧ください。https://csrsdg.com/column/3497.html
私の監修によるマトリックス作成も広範囲の業界で上場・非上場の企業にわたっています(主な事例は次のとおり。順不同)。
モスフードサービス(飲食業)、Food & Life Companies(飲食業)、スカパーJSAT(通信・衛星)、熊谷組(総合建設業)、SOMPO ホールディングス(保険)、PHCホールディングス(医療機器)、DCMホールディングス(流通)、NECネッツエスアイ(ICT)、日本調剤(医薬)、KNT-CTホールディングス(旅行)、日本製紙クレシア(衛生商品)、ミルボン(美容)、NEXCO東日本(道路)、日本道路(道路整備)、YKK AP(建材)、大鵬薬品(医薬品)
※詳しくは各社HPや統合報告書などをご参照ください
ポストSDGsへの新たなフェーズでは、私が開発した「ESG/SDGsマトリックス」が、戦略的な指針を提供します。企業はこのツールを活用すると、投資家をはじめ対外評価を高める効果と社内での「自分事化」が進む効果があります。
発信型三方良しのSDGs活用による実践
企業は、本業の中で関係者との「協創」により商機につないでいます。この点は競争戦略の権威である米国のマイケル・E・ポーター教授らが、自社の利益と社会価値の同時実現を目指す「共通価値の創造」(CSV)という新たな競争戦略を示しました。
これを考えてみるに、日本では、現在の滋賀県の近江商人の経営理念である「三方良し」(自分良し、相手良し、世間良し)のように、もともとあった考えです。共通価値の創造と似ていますが、実は、重要な違いがあります。滋賀県彦根市にある「三方よし研究所」に行った際、三方良しの古文書などの展示と並んで、同様に心得とされる「陰徳善事」という言葉に目が留まりました。「あ、このせいだ」と思ったのです。
これは、「人知れず社会に貢献しても、わかる人にはわかる」という意味です。日本人の美徳ですが、日本企業を内弁慶的にしているのはこの考えの影響でしょう。今は、世代の違いで「わかる人にはわかる」といった空気を読む方法は通じません。ましてやグローバルには通用しません。なにより、発信しないと相手に気づきを与えられず、イノベーションにつながらないことが課題です。
そこで、日本の伝統的な経営理念である「三方良し」(自分に良し、相手に良し、世間に良し)を基に、国内外に積極的に発信することを目的とした「発信型三方良し」を私は提案してきました。
これにマトリックスを活用することでより効果的に「発信型三方良し」を実践し、企業価値向上と社員モチベーション向上につなげましょう。
笹谷秀光 プロフィール (経営コンサルタント、千葉商科大学客員教授)
東京大学法学部卒。1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。
同年~2019年4月伊藤園で、取締役、常務執行役員等を歴任。2020年4月~24年3月千葉商科大学教授。博士(政策研究)。現在、千葉商科大学客員教授。
著書『Q&A SDGs経営増補改訂最新版』(日本経済新聞出版社・2019年・2022年改訂)、『競争優位を実現するSDGs経営』(中央経済社・2023年)。
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